序 キンレイ
キンレイは言われた。
「私たちは、世界を神の愛によって救わなければならない。
神の愛は、人の行いによってのみ、示される。
世界は、それによってのみ、ひとつにならなければならない」
―――キンレイ教典 第三章 二十五節
キンレイ帝国の首都・オルエンの中心地から、少し離れた小高い丘の上に、その神殿はある。
キウルス神殿―――。キウルス、とは、創造主の名である。
かつて、創造神キウルスは、人々の営みを天上から見守っていたが、地上には余りに多くの苦しみがあり、人々は、生きる希望を失くしていた。
創造主は、一人の石工の夢に現れると、人々を救うために、丘の上に立派な神殿を建てなさい、と言われた。
石工は、お告げを信じ、殆ど一人で、三年の歳月をかけ、神殿を創り上げた。
人々は、苦しみから逃れようと、神殿を参詣するようになる。更に人々を救う為、創造主は再び石工の夢に現れる。
「三月の後、お前の妻は男子を産む。生まれた子は私と思って、大切に育てなさい」
当時、石工の妻は、妊娠などしていなかったが、夢の三日後には、妻の腹がうっすらと膨らんだ。妻の体には特に異常は無く、腹は順調に膨らみ、お告げから三月後の満月の夜、無事、男子が生まれた。
石工は、夢で言われた通り、その子に、キンレイ、と名付けた。
キンレイは、青年に成長すると、人々を救う旅に出た。道半ばで斃れるも、彼の伝えた神の教えは、やがてキンレイ教となり、キンレイは救世主と呼ばれるようになる。
それから、千年以上の後。
皇帝紀453年5月28日。
救世主キンレイの名を冠したキンレイ帝国のエランドルク征伐軍は、エランドルクに対し、進軍を開始した。