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ケルベロスの首事情  作者: 蒼井絵宇
第3章 魂転がしの宝珠
9/52

3.2 共闘

「この先に魔王が・・・」

「扉、鍵も罠もねえぞ」

「一気に行きますか?」

「いや、慎重に・・・」

 冒険者の会話の断片が聞こえる。

 扉には魔王の紋章が入っている。迷宮の上層の壁に迷宮のおおまかな構成が彫り込まれており、大迷路か宝物庫の先に魔王洞があることという情報は冒険者に与えられている。その壁には魔王の紋章に関する情報もあり、冒険者にはこの扉の先に魔王がいることが分かるようになっている。

 加えて、迷宮内は罠も敵も熾烈しれつであり、この扉にたどり着くころには魔王と戦うのにぎりぎりの体力や魔力になる。

 だから、この扉にたどり着いた冒険者は他の通路に目を向けることなく扉に集中し、俺たちが潜んでいるこの小部屋には気付かず、俺たちに無防備な背後を晒すことになる。

 正直、ここまでやる必要があるのかと思う。

 俺と彩苗さなえが戦った時の魔王は、それほどまでに、圧倒的な強さを誇っていた。攻撃はそこまで苛烈ではないのだが、まともにダメージを与える方法が分からないのである。

 俺たちが奇襲を仕掛けなくても、魔王一人で充分なような・・・。

 そんなことを考えるうちに、冒険者の声が聞こえてきた。

「・・・開いた。魔王は奥だな」

「よし、行こう」

 冒険者が魔王洞に踏み込んだ。だが、ベベは動かない。一度大きく伸びをして首を振る。集中力を高めているようである。

 爆発音が聞こえた。戦闘が始まったらしい。

『行くぞ』

 ベベが宣言するとともに魔王洞へと走り出した。


  ***


 四人の冒険者が魔王と戦っていた。

 槍を持った重装備の女戦士、ショートソードを構える軽装の男戦士が魔王に接して攻撃を仕掛け、後衛からはローブ姿の女魔法使いと皮鎧を見にまとった男の治癒師ヒーラーが援護をしていた。槍もショートソードも淡く輝いており、魔法がかかっていることを示していた。

「効いてないっ!」

「何が弱点なの!?」

 焦燥を含んだ声が聞こえてくる。彼らも魔王の弱点が分からず、攻めあぐねているらしい。

 そんな彼らに背後から襲い掛かる。

 俺が直線状に電撃を放つと、女魔法使いと軽戦士を直撃した。

「きゃあ!」

「うわっ!」

 悲鳴が上がる。実のところ、電撃は魔王をも直撃しているのだが、魔王に電撃が効かないことは分かっているので気にする必要はなかった。

「畜生!奇襲だ!」

「えっ!?ラスボスなのに!?」

 ・・・その気持ちは良く分かる。正直、俺も同じことを思った。

 彼らが新手である俺たちへの態勢を整えるよりも早く、ベベが治癒師ヒーラーへと駆け寄った。炎を吹きかけ、さらにみついたのだ。

 治癒師ヒーラー咄嗟とっさに障壁を張り、炎を防いだものの、直後のみつきまでは防げない。

 ベベの牙が治癒師ヒーラーの腕に食い込み、悲鳴が上がる。

「くそ!放しやがれ!」

 軽戦士が淡く輝く剣をきらめかせた。

 ベベは首を振って治癒師ヒーラーを跳ね飛ばすと、飛び退いて構える。跳ね飛ばされた治癒師ヒーラーは壁に打ち付けられたことで気絶したらしく、そのまま動かなくなった。


 開戦早々治癒師(ヒーラー)を失ったパーティだったが、やはり迷宮を抜けてここまでたどり着いただけあって、強い。

 咄嗟とっさに俺たちに駆け寄った軽戦士がそのまま俺たちに接近戦を挑み、重戦士が魔王と対峙たいじする形が出来上がっていた。

 だが、これは結論から言えば失敗だったと言えるだろう。

 魔王は弱点が分からず、攻めようがないという点で厄介だし、見た目には派手な攻撃をしてくるのだが、実は魔王の攻撃はそれほど激しくない。

 攻撃のメインは俺たちの方なのだ。だから、重戦士を俺たちに当てた方が粘れたであろう。

 以前、俺と彩苗が魔王に挑んだ時は、幸い、早い段階でそのことに気付くことができた。だから、彩苗がケルベロスに近接戦を挑み、俺は魔王の攻撃を魔法で受けつつ彩苗をサポートした。その時はケルベロスに身体を右に回す癖が残っていたことから、左首を落とすことができた。だが、それが俺たちの限界だった。

 三人になったパーティが追い詰められていく。最初の奇襲で治癒師ヒーラーが落とされたため、彼らが本来のチームプレイを発揮できなくなっていたのもあるだろう。

 ベベと俺の攻撃が軽戦士に集中すると、軽戦士は受けきれずまたたく間に生命力を削られていった。軽戦士の攻撃はベベが接近戦でさばき、魔法使いの攻撃はケルケルが受けた・・・、正確には、ベベが身体を左に振ってケルケルに受けさせた。

『冷たい!ちょっとベベ!』

『痺れる!もう!』

 冷気や電撃を浴びるたび、ケルケルが不満の声を上げるが、不満を漏らしつつも、的確に耐性レジストを張って攻撃を防いでいる。

「くそ!無理だ、受けきれない!」

「変わるわ!」

 軽戦士の声に重戦士が答える。役割を入れ替えようと言うのだ。その判断は正しい。だが、彼らの誤算は、彼らの言葉を俺たちが理解していることだった。彼らの意図は俺たちに丸聞こえだった。

 その結果、入れ替えのタイミングで俺たちが仕掛けた。

 軽戦士が下がるタイミングに合わせて、俺たちは魔法使いめがけて突進をかけたのだ。

 俺の電撃の魔法とベベの炎が同時に魔法使いを襲う。

「ひゃう!」

 魔法使いは炎に対する耐性レジストを張ったが、電撃までは防げず直撃を受けた。そこにベベの牙が迫る。

「ここまでね。撤退よ!」

 不利と見た重戦士が叫ぶ。

 その言葉に、電撃を受けてしゃがみ込んでいた魔法使いが、何とか杖を振り上げた。

 帰還リターンの魔法が発動し、俺たちの目の前で魔法使いが淡い光に包まれる。開戦時に重傷を負っていた治癒師ヒーラー、魔王に向かおうとしていた軽戦士が次々と淡い光に包まれて消えていく。

 が・・・。

 魔王の目の前にいた重戦士が光に包まれるより早く、魔王の声が響いた。

「させぬ」

 俺ははっとして魔王の方に首を向ける。

 魔王が右手をかざし、右手に持っている「何か」が輝いた。


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