12.2 相討ち
戦いは遠距離戦から始まった。
竜が姿を現した後も部屋の中の細胞が泡立っており、俺たちは部屋の入り口から先に進むのを躊躇ったのだ。
壁として立ちはだかる俺たちと卓の後ろから、茜の矢と日葵の魔法が放たれる。俺も彼女たちとタイミングを合わせるように炎を放つ。
竜は魔法の障壁を張って俺の魔法を防ぐ。だが、茜の矢と日葵の放った電撃は防げなかった。矢が翼を射抜き、電撃が竜に叫び声を上げさせた。
次の瞬間、竜が大きく吠えたかと思うと、泡立っていた細胞から黄色い光が放たれた。それは光弾となって俺たちに向かってくる。
咄嗟に雅也が風の障壁を張り、光弾が障壁に弾かれて床へと落ちた。その奥から竜が突っ込んでくる。
『俺たちで引き受けよう!卓!下がれ!』
「卓!下がるのじゃ!」
ベベの頭の中の声をテルテルが音声にする。
卓が飛び退き、俺たちは竜の正面に出た。
迫りくる竜に向けてベベが炎を浴びせるが、竜は怯まずに突っ込んでくる。
俺は内心で自分の失敗を悟っていた。俺が魔法をかけた時に竜が張った障壁がまだ残っていたのだ。炎以外の魔法にするべきだった。
『私受けるよ!』
彩苗が叫び、身体が左に回る。彩苗が心配ではあるが、ここは彼女に任せるしかない。
視界の端、竜が口を開けて彩苗に牙を立てようとしているのが見え、彩苗の首がそれを躱すのが見えた。
しかし、次の瞬間、竜の爪が一閃され、
『うぐ!』
と彩苗が苦し気な声を上げた。
その竜へベベが牙を立てる。竜の叫び声が上がった。
さらに俺たちの後ろから卓が攻撃を仕掛けるが、それは間に合わなかった。卓が前に出るより早く、竜が俺たちから離れて飛び立ったのだ。
卓の舌打ちが響く中、竜は中央の柱を周り、再び俺たちに向かってくる。
二度目の攻防が起こる。
今回、俺は魔法を変えた。風の刃を飛ばしたのだ。だが、竜はその風の刃を受け、一回目より多少多くのダメージを与えただけだった。
黄色い光弾を雅也の魔法が防ぎ、ベベの吐き出す炎を竜が障壁で守る。竜の意識は炎に向けられていた。炎が弱点であることは疑いない。何とか弱点をつけないだろうか?だが、竜は炎に対して強く警戒をしている。そう簡単には出し抜けそうにない。
『ひぐぅ!!』
「ぎゃん!」
彩苗の声が俺を思考から引き戻す。余裕のない声が俺を不安にさせる。
ベベが竜に攻撃を仕掛け、卓も一回目よりも早いタイミングで飛び出し、斬り付ける。だが、卓の剣は竜の翼を浅く切り裂くにとどまった。
再び竜が離れる。
「はぁ・・・、はぁ・・・」
彩苗が苦しそうに息を吐き出しているのが聞こえた。
『彩苗、大丈夫か!?』
『正直、ちょっと、きつい』
『障壁、変わろうか?』
俺は提案する。彩苗がウイルス除けの障壁を張り続けているのに加え、雅也も光弾除けの魔法を張っているため、彩苗へ防御の魔法を張る余裕がないのだ。
だが、彩苗は俺の提案に難色を示した。
『今から守ってもあんまり変わらないかな』
『でも・・・』
『次くらいは耐えられるよ』
逆に言えば、あと一回が限界と言うことだった。
このままでは負ける・・・。
焦燥感が俺を包む。何か手を打つ必要があるのだが、どうしたら・・・。
『来るぞ!』
ベベが警告を発した。
向かってくる竜に向けて氷の魔法を放つが、やはり効果は芳しくない。竜が炎の対策に的を絞っているのは相変わらずあった。ベベの吐き出す炎を防ぎながら向かってくる。
焦燥にかられながら必死に戦術を練っている俺の横で、ベベが首をすっと伸ばし、頭を高く掲げた。何かを決意したようだった。
・・・何を?
戸惑ううちにも、竜が迫り、そして、違和感に気付く。
身体が、回らない。
『・・・ベベ!?』
彩苗の慌てたような声にも俺たちの身体はまっすぐ竜に向いている。
竜がベベの首に喰いついた。
「わぅぅ!!」
ベベは苦し気な声を上げつつ、竜の首へ牙を立てる。
『喰いつけ!』
ベベが苦しそうな声で叫んだ。
『!!』
俺と彩苗は咄嗟に翼の付け根へと食いつく。竜の翼がばさばさと大きく羽ばたいたが、俺たちの牙はしっかりと竜を捉えていた。
卓が飛び出し、竜の首へ深々と剣を突き立てる。
竜が暴れるが、ベベも俺たちもしっかり牙を突き立てたまま、竜を離さない。一方、竜の牙もまた、ベベの首に食い込んだままだった。
そうするうちに、竜が張っていた障壁が切れた。竜が障壁を張り直すより早く、俺は火球を竜へとぶつけた。
「ぐわぁあああああ!!」
ついに竜がベベの首に喰いついていた牙を離し、咆哮を上げた。
そこへ、日葵の放った火球が炸裂し、竜が再び叫ぶ。
卓が走り寄り、竜の首めがけて剣を振り下ろす。
卓の剣は竜の首を分断していた。
竜の身体が一瞬強い輝きに包まれたかと思うと、弾けて黄色い液体を部屋の中へと撒き散らした。
竜に勝った!
勝利の咆哮を上げようとしたその時、俺の耳が「ごとっ」という音を捉えた。
視界の端に、地面に落ちたベベの首が映った。
首からはおびただしく血が流れだし、ベベの首は力を失っていた。




