9.4 乱戦
いくつかの通路や部屋を抜け、迷宮を進む。
戦闘も発生し始めた。
中層も後半に入ると、ケルベロスの威圧も効果がなくなってきたのだ。
相手が敵意剥き出して襲ってくると、戦わざるを得ない。復活できないという制約がかかっている以上、敵を倒さずに進むリスクを冒すことはできなかった。
『くそ、あいつら・・・』
ベベが悪態をつくが、これは仕方ない。俺たちが冒険者についている方が異例なのだ。
ただ、ここまではそれほど苦戦する要素はなかった。最深部にたどり着いたメンバーがパーティを組み、さらにケルベロスが加勢している。むしろ、適度な戦闘は新しく組んだパーティメンバーが連携を確認する上で有益でさえあったと言っていいだろう。
だが・・・。
「ここかぁ・・・」
扉を前に、茜が溜息混じりに呟く。
右ルートと比べて敵の少ない左ルートだが、合流地点の手前に、いわゆる難所が待ち受けている。それがこの扉の先だった。
「開いた・・・」
明人が呟きながらドアから離れた。そのまま、定位置である殿まで下がる。
「音は聞こえないね」
「何が来るかな・・・」
茜と卓が緊張した面持ちで言葉を交わす。この部屋、構造は変わらないが、敵の種類は変わる。それによってかなり難易度が変わるのだ。
卓がドアノブに手をかけ、ゆっくりと押し始めた。
***
「うわ!」
卓が叫んで、開きかけた扉から慌てて手を離した。
ぼん!ぼん!
扉に炎がぶつかり、弾ける音が響く。
「魔法!」
茜が呻く。入口を狙われるのはかなり厄介である。
『ベベ!』
『応!』
俺の呼びかけに、ベベが反応してくれた。
「わん!」
三つの首が同時に吠えながら扉に向かうと、卓が察してくれた。
「助かる!」
そう言ってわずかに開いた扉から離れる。
俺たちはその扉に身体ごとぶつかった。扉が勢いよく開き、壁に当たって大きな音を立てる。
それと同時に炎の球が飛んできて俺たちの身体にぶつかり、弾ける。俺たちにとっては爽やかな風のようなものである。
三つの首がそれぞれ左右に大きく動き、部屋の中を見渡す。長方形の部屋で左右に比べて奥行が広い。
魔法を放ったのは部屋の右にいる四体の悪魔だった。その他、左に弓を構えた悪魔四体、そして正面には剣を持った四体の悪魔がいる他、四匹の巨大蜂が部屋の奥から向かってくるのが見える。
やはりこの部屋はきついが、今回、こちらは人数が多いし、何より俺たちがいる。
べべは迷うことなく部屋の右に向かった。的確な判断だ。俺も彩苗も何も言わず、悪魔との交戦に備える。
俺たちの姿にたじろぎ、慌てて魔法を変えようとする悪魔の群れへと俺たちは突っ込んだ。
左から二番目の悪魔の首にベベが咬みつくと、悪魔は絶叫ともとれる悲鳴を上げる。その間に俺は左の悪魔めがけて魔法を放つ。光の魔法なら一撃で仕留められるだろうが、あいにく、ケルベロスの身では光の魔法を使うことはできなかった。
であれば、と強い冷気を放つ。悪魔の頭上から無数の氷柱が降り注いだ。それは青白く輝き冷気をまとっていることが分かる。悪魔にぶつかると、傷を与えると同時に周囲の肌を凍り付かせた。
悪魔は倒れないが、それは計算のうちだった。それでもかなりのダメージを与えている。もう一撃で確実に倒せるだろう。
その時、俺の顔を温かい感覚が包み込んだ。これは、耐性。彩苗がかけてくれたのか?
彼女の方に顔を向けようとした矢先、悪魔が一斉に電撃を放った。右の二体が放った電撃を彩苗が受ける。
「くっ・・・」
彼女は短く呻いた。
彩苗が気になるが、それどころではない。俺の魔法を受けた悪魔が俺に向けて電撃を放ってきた。
彩苗が張ってくれた耐性が俺を守ってくれる。それでも、電撃が鼻の傷口に触れるとびりっ!と痺れるような痛みが走った。
『痛っ!』
「きゃん!」
意図せず悲鳴をあげてしまう。
『煌太、大丈夫!?』
『すまん、傷口にしみただけだ。彩苗は?』
『この首、頑丈だから平気!』
『彩苗、ありがとう!』
『無理しないでね』
彩苗の声には心配の色があった。確かに無理は利きそうにない。攻撃を受けすぎないよう気を付けなくては。
と、背後から声が聞こえてくる。
「明人!大丈夫です?」
「こっちは大丈夫だ!弓持ちに集中してくれ!」
「早く片付けるです!」
俺は次の魔法を準備しながら冒険者たちの戦闘の様子を窺う。
明人が盾を構えて矢を防ぎながら、弓持ちの悪魔へと向かっている。その後ろから日葵が魔法を放ち、弓持ちの悪魔一体を倒していた。
正面では明人と雅也が剣持ちの悪魔と相対していた。雅也は防御に徹しているらしく、メイスを使って敵二体の剣を捌いている。その横で卓が盾で剣を防ぎつつ、長剣で悪魔に攻撃を仕掛けていた。二人の身体が淡く輝いているのは雅也の魔法であろう。二人の後ろから茜が矢継ぎ早に矢を放ち、蜂二匹を落としていた。
が・・・。
「まだ来る!」
茜が部屋の奥を見て叫ぶ。そこからは新たに四匹の蜂が向かってきていた。
「巣があるんだ!」
卓が言葉を返しながら悪魔一体を倒した。だが、蜂が飛来すると、間もなく卓と雅也は防戦に徹さざるを得なくなった。確かに、部屋の左奥の隅に金色に輝く壁のようなものが見え、蜂はそこから出てきていた。
急いだ方がいいな。
俺は思いながら氷の弾丸を撃ち込む。それは手負いの悪魔の頭を砕き、悪魔は動かなくなった。それとほぼ同時にベベがその牙で二体目の悪魔にとどめを刺した。残った悪魔が二度目の魔法を放ち、彩苗が魔法を受ける。
「雅也、下がれ!」
「でも・・・、うわ!」
再び冒険者たちの様子を見る。俺たちが相手にしている悪魔は残り一体。ベベがすぐに片付けてくれるだろう。なら俺の魔法は苦戦している仲間のために使うべきだ。
弓持ちの悪魔は残り一体になっており、卓が槍を向けていた。こちらは問題ない。
一方、正面では雅也と卓が苦戦を強いられていた。
日葵が剣持ちの悪魔に向けて光の魔法を放ち、剣持ちの悪魔も残り一体になっていた。しかし、雅也と卓は大量の巨大蜂にたかられていた。その数はゆうに十を超える。部屋の奥からはなおも、蜂が飛来している。巣をたたく必要があったが、雅也と卓は防戦一方になっていた。俺は風の刃を放って数匹の蜂を落とすが、焼け石に水だった。
「きりがない!」
茜が矢を放ちながらぼやく。
その時、ベベの声が響いた。
『よし!片付いた!』
俺たちの身体が反転し、正面を向いた。
そして駆け出そうとした時、俺はベベに向かって叫んだ。
『部屋の奥だ!俺たちで巣を叩こう!』




