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ケルベロスの首事情  作者: 蒼井絵宇
第9章 焦燥
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9.3 分岐

 俺たちは迷宮を急ぐ。

 迷宮の異変の元凶が判明したことで、フォーメーションが戻っている。

 すなわち、卓と茜が先頭を歩き、俺たちケルベロス、日葵ひまりが続き、明人と雅也が殿しんがりを務める。

 歩みは速い。当然である。不正チートの男が荒らした後を進むため、障害が残っていないのだ。

 だが、焦燥感は募る一方である。

『おい、どうすんだ?』

 ベベが焦りをにじませる。

『このままあいつのケツ追っかけていてもダメだろ?』

 彼の焦りももっともである。先に魔王にたどり着く必要はあるが、不正チートの男と戦えない以上、遭遇するわけにはいかない。


 この少し前に魔王配下の専用通路を使おうと試みていたのだが、ダメだった。冒険者を連れているためか、入口に顔を向けても反応せず、壁のままだった。

『ご主人様、開けて!』

「わぉーん!!」

 ベベの遠吠えが虚しく響く。

 その様子を見ていて、不安が生じる。本当に魔王が管理者マスターで合っているのか?

 俺たちに攻撃を仕掛けて来た魔王と、不正者チーターに襲われた俺を守った管理者マスターが俺の中でどうにもかみ合わない。どこかで一つ、勘違いをしているのではないか。

 だが、現状、他の可能性に思い至らない以上、魔王の元に向かうのが最優先であることには変わりなかった。


『大丈夫だよ』

 ベベの不安に彩苗さなえが答えた。ベベが身体を進めながら彩苗に首を向けると、彩苗が説明を始めた。

『この先、追い抜ける可能性があるんだ』

 それに対してベベが何か言おうとした矢先、先頭を進む卓と茜が脚を止めた。

 小さな正方形の部屋で、正面の左右に扉がある。そのうち、右側の扉がこれまでと同じように破壊されていた。

「右ルートに行ったか」

「いいね」

 卓と茜が短く言葉を交わす。

『どういうことだ?』

『右ルートの方が敵が多いんだ』

『右ルート?』

『ここからルートが分岐するんだ』

 ベベが左右の扉を見た。

『・・・なるほど』

 理解したようである。

『迷宮のこと、良く知ってるんだな』

『何度もかよったよね』

 彩苗さなえの言葉に苦笑する。何度も迷宮に挑んで、ようやく魔王にたどり着いたものである。だが、あの不正チートの男はそう言う苦労を全て飛ばして、いきなり迷宮の奥に向かっているのだ。

『管理通路は良く知っているんだが・・・』

 なるほど、と思う。ベベはいつも魔王配下の者だけが使える通路を使っているから、迷宮の表の構造はそこまで詳しくないのだろう。

 一度納得したベベだったが、明人が左の扉を調べ始めたのを見て再び不満そうにうなった。

『何やってるんだ。早く行こうぜ』

『扉の罠や敵が入れ替わるんだ』

 門番や魔将は例外で固定配置なのだが、それ以外の扉や敵は入るたびに変わるのだ。だから、何度通っても、気が抜けなかった。

『あいつが先に行っちまうぞ。大丈夫なのか?』

『敵が多いルートに行ったから時間かかるんじゃないかな』

 ベベをさとす彩苗の声には、不正チートの男に対する軽蔑けいべつの念がこめられていた。

『・・・そうかもな』

 再びベベが納得するうちに、扉が開いた。


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