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ケルベロスの首事情  作者: 蒼井絵宇
第9章 焦燥
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9.1 平謝り

 声が、聞こえてくる。

「おい、しっかりしろ!!」

「目を覚ますです!死んじゃいやです!!」

 うっすらと目を開くと、うっすらと明かりに照らされた迷宮の石煉瓦の床が見える。

 四本の人の脚が見え、視線を上げると、俺に心配そうな表情を向ける明人と日葵ひまりが目に入った。

 二人ははっとした表情を見せると、

「良かったですぅ!」

煌太こうた!」

と口々に叫びながら俺に抱き着き、揃って、

「熱っ!!」

と叫んで慌てて身を離した。

 見ると、鼻先が欠けていて、そこに包帯がまかれていた。魔法による治療と応急処置を施してくれたのだろう。かなりのダメージを受けていたことは容易に想像できた。

煌太こうた!気付いたんだね!良かったぁ!』

 彩苗さなえの半泣きの声に俺は

『あ、ああ』

とやや中途半端な返事をする。

 照れているというのもあるが、それ以上に、今後の展開が予想できていて、少し辛い。

『気付いたか。良かったな』

 ぶっきらぼうなベベの声に俺は身構えた。

『それで、ロス・・・、いや、煌太こうたと言ってたな。説明してもらおうか』

 ・・・やっぱり、そうなるよな。


  ***


 はたから見たら、珍妙な光景に見えたことだろう。

 俺と彩苗は首をベベに向けて地面にべったりと付けている。そして、ベベの正面では明人と日葵が正座をし、ベベに向かって頭を地面にこすり付けていた。他の仲間たちが不思議そうにその様子を眺めている。

 俺と彩苗も自分の身体があればベベに向かって土下座をしていたことだろう。だが、首しか動かせない都合上、首を地面に付けることで土下座の代わりにしていた。


 あれから俺たちはベベに、俺たちに起こったことを話した。

 まず、俺がロスロスの代わりに首に入ったこと、その後、ケルケルが落ちたタイミングで魔王が魂転たまころがしの秘宝を使った時、ケルケルの首に彩苗が入ったこと。そして、ベベが眠っている間に俺と彩苗、明人たちの間で情報交換をしていたこと。

 すべてを正直に話すことは出来なかった。特に、俺がケルケルを半ばめるようにして落ちるきっかけを作ったことや、俺と彩苗が魔王の儀式を盗み見たことはとても言えない。折角、ベベとの信頼関係が築けつつある。今回の件で信頼に傷が入ることは免れ得ないが、必要以上に彼の不振を高めるのは避けたかったのである。

 明人と日葵には俺たちの会話は聞こえていないはずだった。だが、ベベの不機嫌そうなうなり声や俺たちの首の動き、それに何より、彼らも俺の名前を呼びまくっていたことから、状況を察したのだろう。

『俺を、だましていたんだな』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

 ベベの言葉に俺と彩苗が同時に謝り、耳と首を伏せた。

『ケルとロスはどうなったんだ?』

『分からない。でも・・・』

 俺は言葉を飲み込む。呼び戻しをしていないということは、魂は離れた状態のままだろうし、最悪の想定もある。冒険者の魂が呼び戻せなくなっている。もし、これが上位の魔物にも当てはまるとしたら・・・。

 そこまで考えた俺ははっとした。もしかして、魔王も魔将の復活の儀式に失敗したのではないだろうか?ただでさえ異例の早さで復活を遂げた俺たちに不信を抱いていた魔王が、魂の呼び戻しができなかったことで、本来のケルベロスと別の魂が入ったことを確信した・・・。

 ありうるな、と思った。

 ベベは不機嫌そうに首を振る。彼は大きく溜息をつき、それがうなり声となって彼の口から漏れた。彼は怒りをぶつけるのをこらえていた。代わりに、問いかける。

『復活ができなくなっている、と言ってたか?』

『・・・ああ』

『くそっ・・・、何が起こってるんだ』

『俺たちも望んで奪ったわけじゃないんだ』

『分かってる。くそっ』

 ベベの苛立たしげな声に、俺は吃驚びっくりしてベベの顔を見た。彼は俺の鼻先に痛ましそうな視線を送っていた。

 そうか。あの無敵の男からベベをかばったことに、彼は気付いていたんだ。それで彼は怒り切れずにいるのだ。

『魔王・・・、ご主人様を戻すために、何が起こっているかを突き止めるんだ』

『私たちも自分の身体に戻りたいし、何が起こるかが分かれば、ケルケルとロスロスも復活できるようになるかもしれないよね』

 彩苗が援護をしてくれた。実際、俺の中での目的が少し変わってきていた。帰還リターンをした当時は魔王を倒すことが自分の身体に戻るために必要だと考えていた。だが、この世界で不具合が生じていることに加え、明らかにこの世界のルールに合わない不死身の男が出て来たことで、認識を改める必要に駆られていた。

 俺たちがケルベロスの首に入ったのは、不具合であり、魂転たまころがしはきっかけに過ぎない。としたら、魔王ではなく、不具合の方を何とかする必要があるだろう。

 再びベベがうなったが、その唸り声には力がなかった。

『今しばらく信じてやるが』

 ベベが俺と彩苗の首を交互に見た。

『次何かあったら、もうお前らの言うこと聞かないからな』

『分かった』

『ありがとう!』

『それで・・・、あいつは何だったんだ?』

『おそらくだけれど、不正冒険者チートプレイヤーだ』

『私もそう思う』

不正冒険者チートプレイヤー・・・?』

 俺たちの言葉に、ベベが首を傾げた。


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