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ケルベロスの首事情  作者: 蒼井絵宇
第8章 迷宮
32/52

8.4 助力

 がいん!

 金属音が響く。

 男が振り下ろした剣をベベの額が弾いた音だった。

 魔法がかかっておらず、振り下ろしも甘い剣では俺たちの皮膚を斬ることはとてもできない。

「くそゲーじゃねえか。面倒臭めんどうくせえ」

 舌打ちをする男へと、攻撃を受けたベベが反撃をする。

 唸り声を上げながら、男の肩に咬みついたのだ。

 無論、男は慌てて避けようとするそぶりを見せるが、ベベの首の動きに全くついていけておらず、男の肩に牙が鋭く食い込んだ・・・、ように見えた。

 本来なら致命傷だったであろう。ベベの大きな口は肩どころか男の胸にまで達している。その牙は皮鎧を貫通し、心臓にダメージを与えているはずだった。

 俺はそんなベベの行動を止め損ねたことに若干の罪悪感を覚えたものの、すぐにその罪悪感は吹き飛んだ。

 男は微動だにせず、叫び声も上げない。ベベがすぐに口を離し、戸惑ったような表情を見せた。

 男の身体からは血液一滴漏れていないし、その身体に牙が刺さった形跡はなかった。

「こんなん、避けられるわけないじゃないか。ひどいよなあ」

 男がぼやきながら剣を放り投げ、ベベに向けてこぶしを振るう。

 よろよろとしたその動きにベベが戸惑ったような表情を向ける。

 が、俺は途轍とてつもなく嫌な予感を覚えた。

『ベベ、よけろ!』

 俺の言葉にも、ベベの戸惑ったような表情が消えず、彼の反応が鈍い。


 咄嗟とっさのことに、俺は思わず首を右に振った。

 今までの習慣通り、ベベが反射的に身体を右に回す。

 身体の回転によって、俺の首へと男の拳が向かってくることになった。

 魔法で逸らすか?いや、たぶん、無理だ。かわすしかない。

 必死に首を捻るが、かわしきれず、拳が鼻に当たった。


 めきっという異様な音が響いた。


「ぎゃう!!」

 俺の口から悲鳴が上がり、ベベと彩苗さなえの驚いたような声が脳内に響く。

『おい、ロス!?』

煌太こうた!?』

 彩苗が思わず俺の名前を呼んでいたが、俺は激痛に見舞われ、それを気にする余裕がなかった。

 拳の当たった場所がえぐり取られていた。

 鼻の先がごっそりとなくなっており、鮮血がほとばしっている。

 ベベが慌てて後退すると、男の立つ場所から血が一本の線を描いた。

「ううーーー!!」

 男から距離をとり、威嚇する。

「なんだか、今までの奴らと違うなぁ」

 男は俺たちを見てつぶやく。警戒する俺たちとは対照的に、無防備な姿を晒しているのが不気味である。

 状況は悪かった。男の攻撃は、予想外に深刻なダメージを俺に与えていた。殴られた場所から血液が流れ出すにつれ、俺の意識も流れ出していく。


 だめだ、ここで意識を失ったら・・・。


 復活できないのではないか、という不安が俺を縛り上げている。

 血煙に霞む視界にしがみついていると、唐突に男が口角を上げた。

 と、嫌な予感を覚える間もなく、男の姿が不意にき消えた。

『!?』

 ベベが吃驚びっくりして首を振る。

 その時、俺の視界の左端に人影が映った。

「こういうのって、一つずつ潰すのがセオリーってやつ?」

 俺の緊迫感とは対照的な間延びした声。

煌太こうた!?』

 彩苗の叫びと同時に、俺の視界に男の拳が飛び込んでくる。


 ダメだ、避けられない!


 致命傷になるだろう。俺は、死ぬのか・・・?

 拳が視界いっぱいに広がり、思わず俺は目をつぶったその瞬間。


 ぶ・・・ん。


 耳鳴りとともに、俺の顔を温かい何かが包み込んだ。

 がきん!

 やけに硬い音とともに、俺のこめかみが何かを弾いた。そして、

「なっ!?」

 男の驚愕きょうがくの叫びが聞こえた。

 恐る恐る目を開けると、男は憤怒ふんぬおびえに歪んだ表情を見せていた。

 彼は最初、俺たちをにらんでいたが、視線を逸らして迷宮の天井を見上げる。

 ・・・何を、見ている?

 そう思っていると、男が拳を振り上げながら叫び始めた。

「邪魔すんな、畜生!権限奪ってやるからな!」

 ベベが男に攻撃を仕掛けるが、やはり効果はない。

 だが、男は戦意を失っているようだった。俺たちに背を向け、迷宮の奥へと歩みを進めていく。俺たちのことはもはや眼中にないらしく、目を向けようとさえしなかった。

 一方、俺たちも彼を追うことはできなかった。

 追ったところで攻撃をする算段がついていなかったし、何より俺が限界を迎えていた。

 視界が下がり、地面が視野一杯に広がると同時に、赤く染まっていく。

『おい、ロス!?』

煌太こうた、しっかり!』

「おい、何があったんだ!?」

「どうしたです!?」

 俺の脳と耳にいくつもの声が飛び込み、そして薄れていった。


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