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ケルベロスの首事情  作者: 蒼井絵宇
第8章 迷宮
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8.1 パーティ編成

 空の明るさとは対照的に、暗くて重い空気が空き地を包み込んでいた。

 パニック状態にある狩人と戦士を明人が慰めるかたわらで、隼太はやたが頭を抱えて震えていた。復活できない、という事実が彼に強い恐怖を与えているのは想像にかたくない。その横では、軽戦士、治癒師、魔法使いの三人パーティが、呆然ぼうぜんと空き地の惨状を眺めていた。

 戦闘や罠でいつ命を落とすか分からなくなったという事実が彼らを締め上げている。

『ど・・・、どうしたんだ?』

 ベベが空き地の様子を見て、問いかけた。

 俺は、少し考えてから問いに答える。

『俺やケルケルが落とされた時、少しして復活しただろ?それが、できなくなったみたいなんだ』

『・・・』

 ベベは空を見上げた。何か考えているらしい。

 俺自身にも疑問が生じた。もともと、この身体に入っていたケルケルとロスロスはどうなったのだろう?人格はAIのものだったのだろうか?冒険者たちと同じように、復活せずに、消滅した?

 分からないことだらけである。

「迷宮に行くですっ!」

 空き地を覆う陰鬱いんうつな空気を振り払うように日葵ひまりの声が響き渡った。

 冒険者たちの視線が日葵に集まる。

「何が起こっているか、はっきりさせるです!」

 彼女の決意に満ちた声に対する反応は、だが、真っ二つに分かれた。

 明人や三人パーティのメンバーが日葵に視線を向けて頷く一方で、隼太と狩人、戦士の三人は目を背けた。

「迷宮行って、死んだら・・・」

 隼太の声が震え、彼は言葉を詰まらせた。

「じゃあ、どうするんだ?」

「え・・・」

 明人の問いに隼太は答えられない。

「ずっとここにいるのか?」

「分からない。でも、死ぬのは嫌だ」

 明人は目を閉じた。一瞬、彼の額に皺が寄る。それから彼は目を開いた。

「そうだな。隼太はここで待っていた方がいい。君たちも」

と、狩人と戦士に視線を向ける。

「俺は、行く。誰かが、解けばいいんだ」

 明人が拳を握りしめる。

 すると、三人パーティの軽戦士が明人の前に進み出た。

「俺たちも同行させてくれ。な、茜、雅也」

 魔法使いと治癒師が頷き、明人が彼らに笑顔を向けた。

「助かるよ。是非」


 彼らはお互いに自己紹介をする。軽戦士は卓と言った。精悍せいかんな顔立ちですらりと背が高い。魔王洞で戦った時と同じ淡く輝くショートソードを持っている。

「僕は雅也。援護しますね」

 治癒師ヒーラーが言う。皮鎧を身にまとい、小ぶりなメイスを持っている。いざと言う時には接近戦を担当することもあるのだろう。鋭い表情を持ったパーティメンバーの中にあって、彼の穏やか表情が目を引く。小柄だが、軽やかな身のこなしを見るに、俊敏さを持っているのだろう。

「私、茜・・・」

 魔法使いは静かに言うと、日葵ひまりを見た。同じようなローブ姿をしている。

役割ロール変更、しょうか?」

 茜が卓を見ると、彼は頷いた。

「そうだな。美咲みさきが戻らないとなると、俺自身も役割ロールを変更しておきたい」

 卓たちが打合せをしている横で、明人が隼太に声をかけた。

「隼太はこれからどうするんだ?」

「分からない・・・」

 彼はそわそわと落ち着かない様子で辺りを見回している。彼は気付きつつあった。迷宮に行かなかったからと言って、ここも決して安全ではない。時折、襲撃のイベントが発生する。今までは戦闘経験を積み、報酬を得るためのイベントだったそれが、今は命を脅かす可能性を秘めているのだ。

 明人は隼太の肩に手をおいた。

「落ち着け。迷宮に行くよりはここにいた方が危険はずっと少ないはずだ。何かあったら、町や他の冒険者たちと協力して、生き延びるんだ」

 隼太はがくがくと頷くと、未だ恐慌から立ち直り切れていない戦士と狩人を引き連れて宿に向かって行った。それを明人と日葵が心配そうに見送った。


  ***


『・・・迷宮に行くんじゃなかったのか?何をやっているんだ?』

 不機嫌そうにベベが呟いた。

 俺たちは武具店の前の道に寝そべっていた。通りがかりの町人たちが不思議そうな目で俺たちを眺めていく。

『いろいろと準備があるみたいだね』

 俺はとぼけて見せる。無論、冒険者たちが何をしているかははっきりと分かっているのだが、知らない風を装った。ややいまさら感はあるのだが・・・。

 実際、彼らは迷宮に入るための準備をしている。特に、卓と茜が言っていた「役割ロール変更」のための装備替えをしているのだろう。魔法使いは特に攻撃において強力な役割ロールなのだが、防御が弱く、ローブ姿のため回避も不利になる。なので、魔法使いを守る盾が必要になる。魔法使いが二人になると、それに伴って盾の数も増やす必要があり、パーティのバランスをとるのが難しくなるのである。

『・・・お?』

 ベベが驚いたような声を上げた。武具店から仲間たちが出て来たのだが、卓と茜の装いがだいぶ変わっていたのだ。

 卓は重装に変わっていた。金属を編み込んだ鎧を身にまとい、カイトシールドと長剣を持っている。まだ重さに慣れないかのように、一歩ずつ、地面を踏みしめながら歩いている。

 一方、茜は身軽になっていた。ローブ姿から軽装の皮鎧姿に変わっていたのだ。女性用の皮鎧は何故かやや露出が多い。胸回りと腰回りはしっかりと守っているのだが、へそが見えている。ローブ姿とは対照的に、彼女の痩身そうしんがはっきりと浮き出ていた。小ぶりな剣と弓を携えており、前衛と後衛の両方を担当できることを示していた。

「待たせたな」

 そう声をかけた明人は、相変わらず槍と盾の両方を持っていた。


 重戦士、卓

 軽戦士、明人

 狩人、茜

 治癒師、雅也

 魔法使い、日葵

 そして、ケルベロス・・・。


 五人と一匹、いや、五人と三つ首が、迷宮に向かうことになる。


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