6.2 対抗手段
この場所にとどまっていたのは良くなかった。転移の登録先として絶好の場所であり、俺以外にもここを帰還先に登録している冒険者は多いだろう。
今まさに、別の冒険者がこの場所へと帰還してきた。
広場の一角が強い輝きに包まれたのだ。輝きは人の輪郭をとると、人間の形を残して薄れていく。
三人の人影が広場に現れた。
『え、明人?』
『またこいつらか!』
彩苗の戸惑うような声に俺は大声をかぶせた。ベベがやや驚いたように俺に視線を送った後、現れた人影に視線を戻し、威嚇する。幸い、彩苗の声にベベは注意を払わなかったようである。
「あー!なんでこいつがここにいるです!?」
日葵の威勢のいい声が聞こえて来る。
「ケルベロス!?嘘だろ?」
明人の表情が驚愕に歪んでいる。友人を驚かせたことにちょっとした優越感を覚えたが、おそらく今はそれどころではない。彼の武器は変わらず槍だったが、今は槍を片手で持ち、片手には盾を構えていた。彩苗を失ったことで、攻撃重視から防御重視に切り替えたようだった。
「ケルベロス?魔王の番犬だろ?なんで・・・」
もう一人は見覚えのない男だった。革鎧に小ぶりな剣と小型の盾を持っている。軽戦士だった。新たに明人と日葵のパーティに加わったのだろう。やや怯えを含んだ目で俺たちを見ているあたり、やや気が弱そうな印象を受ける。
「こいつが町へ行ったらやばい!隼太、町へ行って戦えそうな人を集めてもらえないか!?」
「う、うん!」
明人の指示に隼太と呼ばれた軽戦士が走り出す。
『おい!?』
ベベが隼太を追おうとするが、明人が立ちふさがった。
「日葵!俺たちで防ぐぞ!」
「わ、分かったですっ」
明人と日葵が武器を構える。
ベベが唸り、突撃を仕掛けようとしたので俺は慌てた。
『ま、待て!ベベ』
『なんだ!?こんな時に!?』
『攻撃したら俺たち詰むぞ!』
突撃しかけていた俺たちの身体が止まる。ベベは苛立たしそうに俺に視線を向けた。
『じゃあ、どうするんだよ!』
『取り入ろう』
俺の言葉にベベの眉が吊り上がる。
『と、取り入る!?』
「ねえ、何か様子おかしくないです?」
日葵の戸惑ったような声が聞こえてきた。
「・・・仲間、割れ?」
明人は訳が分からないと言った様子でたちすくんでいる。
「攻撃、仕掛けるです?」
それは困る。幸い、明人が魔法の準備をしようとする日葵に待ったをかけた。
「待て、様子を見たい」
俺がパーティ側だったら明人と同じ判断をしただろう。隼太が応援を呼びに行っているのだから、攻撃を急ぐ必要性はないのだ。相手がはっきり敵対行動をとっていないとなればなおさらである。無用な戦いを避けられるに越したことはない。
ベベにもそれが分かっているのだろう。彼はいらいらと首を振った。
『人間の肩を持つなんて正気かよ!?こいつら倒して迷宮に戻った方が・・・』
『それで、ご主人様にやられるのか?』
俺の言葉にベベが口ごもる。
『ロス!生意気だぞ!俺に従え!』
ベベは冒険者に取り入るという俺の考えにはあくまで反対であるようだった。彼は強硬手段に出ようとする。
明人達に向けて身体を動かし始めたのだ。
明人と日葵がそれを見て身構える。
だが・・・。
俺は対抗策をとった。
首の力を抜いたのだ。重力に従って首が地面に落ちた。身体の動きに合わせて首が引き摺られたが、それでも俺は首を動かさない。
戦わないと言う意思表示。そして、それに彩苗が従った。冒険者へと向けられたベベの首の下から、彩苗の首が地面に垂れ下がるのが見えた。
『な!?ケル!?お前まで・・・』
ベベが驚愕の声を上げて再び動きを止める。
これは、効いた。
いくらベベが身体の制御権を持っていても、俺たちが本来の強さを発揮するためには三首の連携が大事である。これは俺自身、今までの戦いで思い知らされてきたことだった。俺と彩苗がサボタージュを起こしている現状、パーティに戦いを挑むのであれば、ベベが首一つで、なおかつ俺と早苗の首を引き摺りながら戦う必要がある。
それに・・・。
地面に垂れた俺の首から、明人の剣がまっすぐベベへと向けられているのが見えた。明人と日葵は揃って驚いたような表情を見せながらも、警戒を解くことなく、主な注意をベベへと向けている。
俺と彩苗の行動により、中央の首だけがパーティに敵意を向けていることがはっきり明人達に分かったのだ。これで戦いを挑めば、当然、明人と日葵はベベに集中砲火を浴びせることだろう。五分ももつまい。
その可能性もあったし、そうなったら中央の首を引き摺ってパーティ側につくのもやむをえないと、この時の俺は考えていた
幸い、ベベは折れた。
『くそっ・・・』
悪態をつきながら、ベベは首を下す。
明人と日葵は戸惑ったような表情を見せながらも構えを解いていない。
さて、戦闘に入るのは避けられたようだが、ここからどうしよう?
そう思っていると、広場の一角に複数の輝きが生まれた。




