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異界照邏  作者: 七宝
2/2

ヘッドホン

「17時に予約したシロサイという者だが」


「お待ちしておりました。こちらの席へどうぞ〜」


 早歩きで来たことでなんとか焼肉の予約に間に合ったシロサイは、乱れた息を落ち着かせようと胸を撫で下ろした。


「ふぅ、まずはビールだな。最初の肉は当然牛タン。厚切りのやつだ」


 慣れた手つきでタッチパネルを操作するシロサイ。


「チョレギサラダも頼んでおこう」


 注文を済ませ、おしぼりで手と顔と首を拭くシロサイ。


「あーやだ恥ずかしいヒソヒソ」

「顔拭くのもおじさんなのに、まさか首まで拭くとはねヒソヒソ」

「ていうかあの人1人で来てんじゃん! ヒソヒソ!」

「ちょっと麤珠美(ぞじゅみ)静かにしなさいよ本人に聞こえるでしょ!!!!! ヒソヒソ!!!!!!!!!!!」


 こちらを見ながらヒソヒソ話をする5人組の女子高生を睨みながら立ち上がるシロサイ。


「お待たせいたしました、ビールでございます!」


「あ、ありがとうございます」


 一旦座り、店員が去った後にまた立ち上がるシロサイ。


「ちょっとあの人こっち見てるよヒソヒソ!」

「絶対聞こえてたんだよヒソヒソ」

「こっち来るつもりだよソヒソヒ!」


 鬼の形相で歩みを進めるシロサイ。

 その時だった。


「なんだこの店は! 客を舐めてんのか!」


 そんな怒号が店内に響き渡った。


「申し訳ございません!」


 と女性の声が続く。


「この牛タン全然厚切りじゃねーしカルピスうっすいしサラダはビショビショだし何なんだよ!」


「申し訳ございません!」


「馬鹿のひとつ覚えみてーに謝りやがってよぉ! 誠意見せろよ誠意をよぉ!」


 そう言ってツンツンヘアーの女性店員に掴みかかる女児。

 店内が凍りつく中、そのテーブルに向かう者がいた。


 パフン パフン パフン パフン


 珍しめの足音が店内に響く。


「揉め事か?」


 シロサイの登場である。


「あ! さっきのロンリーおしぼり拭き拭きマン! 略してロンリーおしり拭き拭きマン!」

「ちょっとサンバサンバブンバボンバ、本人に聞こえるわよ! それに1文字しか省略出来てないじゃないのヒソヒソ!」

「ナコこそ声大きいよ! ゾフゾフ!」

「いいからみんなちょっと黙ってなさいよヌルヌル」


 女性店員を締め上げていた女児がそのままの体勢でシロサイを睨んだ。


「なんだオメーは! 関係ねぇヤツは引っ込んでろ! すっ殺すぞ!」


「拙者は異界照邏(いかいしょうら)のシロサイと呼ばれている者だ。一日一笑を作る者だ」


「何言ってんだい! 今すぐ消えねぇとすっ殺すよ!!!!!!!!!!!」


「もう1度聞く」


「あ?」


「揉め事か?」


「そうだよ! 今こいつと話してんだから引っ込んでろよ!」


「だがそいつは馬鹿のひとつ覚えみたいに同じことしか言わないのだろう。拙者でよければ話を聞くぞ」


 シロサイは優しく女児に言った。


「実は⋯⋯」


 女性店員を掴んでいた手を離し、女児がシロサイの方を向いた。


「あたち、今日の焼肉のために月200円のお小遣いを2年間貯めてたの。この日をずっと楽しみにしてたんだ。なのに、なのに⋯⋯びぇえええええええ」


 女児は泣き出してしまった。


「そうかそうか、つらかったねぇ」


 優しく女児の頭を撫でるシロサイ。


「ふえぇ⋯⋯びぇえ⋯⋯」


 シロサイの胸の中で泣く女児。


「あいつロリコンなんじゃねヒソヒソ」

「間違いないね、私の脳内のアトランティックサーモンもそう言ってるヒソヒソ」

「ゆっこ、頭の中でアトランティックサーモン養殖してんの!? ヒソヒソ!!!!!!!!!!!」

「コラあさひ! 本人に聞こえちゃうよ!」

「本人ってゆっこなんだけど!? あのロリコンの話じゃないじゃん養殖の話は!!!! ヒソヒソ!!!!!!!!!!!」


「あのおねーちゃんたち、どーちたの⋯⋯?」


 泣き止んだ女児が不思議そうな顔でシロサイに聞いた。


「なんかずっと拙者の悪口言ってる」


「ええっ! そんなのひどいよ! おねーちゃんたち、はじゅかちくないの! こんなに優しくてかっこいい人の悪口言うなんてはじゅかちーよ! さいてー!」


 そう女児が涙ながらに訴えたが⋯⋯


 (゜▽゜)


 (゜▽゜)


 (゜▽゜)


 (゜▽゜)


 (゜▽゜)


 ちょうどタイミングが悪く、5人揃っての瞑想タイムだった。


「拙者も焼肉を食べなければいけないからそろそろ行くよ。最後に渾身のギャグを披露してあげよう」


 この世の笑顔を増やすのがシロサイの務めなのだ。


「さて⋯⋯」


 シロサイはそう言って女児のテーブルにあったトングに手を伸ばした。


「よいしょ」


 トングをめいっぱい開き、頭に挟んだ。


「トングのヘッドホン」


「えっ?」


「トングのヘッドホン」


「トングの⋯⋯」


 それから5分程度沈黙が続いた。


「さらばだ」


 シロサイはそう言って(腹いっぱい食べるつもりだったからベルトを外していたらいつの間にかずり落ちていた)ズボンを履き、自分の席に戻った。


 シロサイに続いて次々と野次馬が解散し、テーブルには女児と女子高生5人組だけが残った。


「トングのアゴ⋯⋯」


 シロサイと上下逆の向きに挟み、呟く女児。


「⋯⋯トングアゴー(ロングアゴー)」


 女児はまた呟いて、ふふ、と笑った。


 こうしてまた、笑顔が増えたのであった。

 その後女子高生5人組は女児の机で88分に渡り(゜▽゜)(゜▽゜)(゜▽゜)(゜▽゜)(゜▽゜)をしたという。

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