act…4
「燈子さん。さっきから誰、見てんスか?」
高杉を見つめていると、突然横山くんから声を掛けられた。
横山くんは、短い髪をワックスで立てたツンツンヘアーで、私にだけ敬語をつかう。クラス替えがあってすぐにその訳を尋ねると、「燈子さんは特別なんスよ!」と熱い眼差しで見つめられた。
未央曰く、「横山は燈子に惚れている」との事らしい。それでも私は横山くんの声に魅力を感じないので、その熱い視線はいつもスルーしている。
「高杉のこと見てたの」
「え? 高杉? なんで高杉?」
「高杉と喋った事ないねって話になって、なんか気になったから」
そう説明すると、横山くんが詰め寄ってきた。
「燈子さん! 高杉なんて気にするなら、俺のこと気にしてくださいよ」
「横山くんの事だって気にしてるよ。半年に一回くらい」
私の返しで、近くでお弁当を食べていたグループから笑いがおこる。基本、私と横山くんの絡みはいつもこんな感じで、クラスの皆からは『安定のSM』と呼ばれていた。
そんな私達の所へ、横山くんと仲がいい松田くんがやって来る。
「相変わらず、こいつにドSだよね」
笑いながら、横山くんを指差した。
松田くんは、横山くんのボケ(多分天然)に、いつも冷静なツッコミを入れている。ネクタイをゆるく結び、髪にゆるいウェーブをかけた、何かとゆるいスタンスが人気の脱力系男子だ。
その松田くんの言葉を聞いていた横山くんが、急に何か閃いたように瞳を輝かせた。
「俺、限定ドSとか。それって……すっげぇ特別感が半端ない! やっぱり燈子さんは、俺に惚れていたか」
こちらに注目していたクラスメイトから、一斉に「ちげーよ」とツッコミが入る。
そして、「お前、前世ポジティブの神かよ。プラス思考にも程があるだろ」という松田くんのゆるい呟きで、一気に教室中に笑いが広がった。
「昼飯、吹き出しそうになった」
「もうお茶吹いてる」
「燈子さん狙いとか、身の程を知れ」
「でも前世は、神な横山」
「今世は残念なポジティブ」
「私は結構好きだけどな、今世の横山くん」
最後の言葉に、横山くんが嬉しそうに問いかける。
「え? さ、最後の女子! 今のだれぇ? 俺のこと結構好きな女子! きょ、挙手願います!」
その問い掛けに誰も手を上げず、教室が一気に静まり返った。その二秒後、また一気に笑いだす。
基本、クラス全体に笑いが起こる時のきっかけは、この松田・横山コンビと私の絡みから始まる。
教室という限られたテリトリーで、話題の中心にいるポジション。これがどんなに狭い世界の話だったとしても、私はそれを絶対に手放したくないと思っていた。
この先、どんなハプニングに遭遇するとも知らず……。