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サイドストーリー act…2『勇気の使い方』


*高杉視点の本編終了後の後日談です。



 若槻さんが井上君に啖呵(たんか)を切ったあの日から、一ヶ月が過ぎた。


 机の上に乗って叫んだ『いい加減にしなさいよ!』は伝説となり、若槻さんの人気はさらに浮上している。今までの人気にプラスして、オタク層の男女からも熱烈な敬愛をうけるようになっていた。


 そして、その中の有志(ゆうし)により『声優同好会』が創設され、若槻さんは名誉顧問として(あが)められている。


 入部希望者は日ごとに増えていき、遂にはオーディションが行われるまでになった。もちろん審査委員長は若槻さんだ。


 若槻さんは男の入部希望者が来ると、「ちょっとエロいこと言ってくれない?」とオーダーする。僕も電話中に言われた経験があった。

 このインパクトのあるフレーズが、参加者の間で大人気となり、これが聞きたくてオーディションに参加する人まで現れるようになった。


 そして今では、深夜番組のタイトルのように『若槻燈子のちょっとエロいこと言ってくれない?』が、オーディションの名物コーナーとなっている。


 そんな若槻さんは相変わらず、僕なんかをヒーローと言ってくれる。あれから登下校は、二人で待ち合わせるのが日課になっていた。


 ある日の帰り道。

 地元の駅前で、街灯アンケートを受けた。僕は呼び止める声に聞こえない振りをして通り過ぎようとしたけれど、若槻さんは 「面白そうじゃん」と僕の手を引き立ち止まった。


「高校生カップルに質問です」


 そんな前置きに、二人で顔を見合わせる。

 僕と若槻さんがカップルに見えているのだろうか。そう意識するだけで、一気に顔が熱くなった。


 そして、改めて思う。

 僕と若槻さんの関係は、いったい何なのだろう。


 もちろん恋人なんておこがましいし、友達というのも、やっぱりおこがましいような気がする。


 けれどカップルという言葉に、若槻さんが何も否定しなかったので、僕らはそのままアンケートを受ける事になった。


 運動神経がいいのはどっち?

 モテるのはどっち?


 そんな単純な質問が続き、僕らの答えは若槻さんの 「私でしょ」 という返答と、「僕もそう思います」ばかり繰り返している。


 このアンケートが、どんな資料に役立つデータなのだろう。


「運が悪いのはどちらですか?」

「私でしょ……、あ!」


 先程までの勢いで、若槻さんが綺麗に間違えた。


「じゃなくて、運が悪いのは高杉の方」

「僕も、そう、思います」


 笑いながら答えると、「笑うな、バカ」と拗ねたような声で若槻さんが呟いた。


「では最後に、ここは相手に負けないっていう所はどんな所ですか?」


 その問いを聞いた若槻さんが、急に顔を赤くして(うつむ)く。それからアンケートの人に、内緒話でもするように、何かを耳打ちした。


「はい! アンケート終了!」


 そしてくるりと背を向けて、歩き出す。


「あ、待って下さい」


 追いかける僕を振り返り、「待たなーい」 と言って走りだす。僕は必死になって追いかけて、 若槻さんの隣に並んだ。


「ねー、高杉。 あんた、自分のこと嫌いでしょ」

「はい。嫌いです」


 ずっと、下を向く事しか出来なかった自分が嫌いだった。


「だから、私の方が勝ってるの」

「え?」

「高杉の事を、好きって気持ち」

「僕を好きって……へ? 好き……え?」


 僕は軽いパニック状態になって立ち止まる。


「ち、違うわよ! あんたよりずっと、私の方が高杉の良いところを知ってるって意味!」


 若槻さんが大きな声で、言葉を付け足す。


「別に告白とか、してないんだからね!」


 そう言って、若槻さんが上目遣いに僕を睨んできた。


「は、はい! 誤解とか、してません」


 前に「大好きなんだけど」 と、 電話で言われた事がある。同じようにパニックになった僕に、若槻さんは 『声だけだから』 と念を押した。


 分かってます。

 それでも僕は、嬉しかったです。


『自分の事嫌いでしょ』


 だけど、ほんの少し、ほんの少しだけ。

 若槻さんのお陰で、僕は自分を好きになれたような気がします。


 なにもない僕だけど、若槻さんに負けないものを見つけました。


 自分の為には出せなかった勇気が、若槻さんを守るためなら湧いてきます。若槻さんを守りたい気持ちは、きっとあなたに負けません。


「ねー、高杉。 もっともっと、あんたは自分のこと好きになってよ。だって高杉は、私のヒーローなんだから」


 そう言って、若槻さんが照れたように笑う。

 整ったシャープな顔立ちが、フワリとした優しさに包まれた。


 カワイイな。

 そう思うと、胸の奥がギュッと痛みを主張した。


 この痛さはなんだろう。

 この想いは何だろう。


「ねー、高杉。公園で、もうちょっとだけ話そうよ」


 僕より、ほんの少しだけ低い位置から見上げられた視線。不透明だった痛みが、確かな熱に変わる。


 僕は貴方を守る。

 その勇気の使い方だけ知っていればそれでいいのに……。

 気付いてしまった想いが、僕の正義を(そそのか)す。


「嫌なら別に、公園に寄らなくてもいいけど……」


 俯いてしまった若槻さんの手を、僕は握り締めた。


「話したい事があります! 伝えたい事がっ……あります」


 若槻さん。

 若槻燈子さん。


 貴方を好きに、なってもいいですか?



(了)


高杉視点:後日談

『勇気の使い方』



*最後まで読んで頂き有り難うございました!

これで完結です。


*宜しければ、評価やいいねなど、何かリアクションもらえると嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 燈子の心の声、すごく面白かったです。 ハッピーエンドで良かったです。
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