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act…17


 公園が闇に包まれる。

 街頭が、まるで見計らったように橙色の光を放ち、私と高杉がいるブランコの周りを明るく照らしてくれた。


 高杉のおかげで元気を取り戻した私は、買い物から家に戻っているはずの母が心配になり電話をかける。


「もしもし、お母さん! 大丈夫?」


 突然の私の問いに、母が戸惑った声で言葉を返した。


「大丈夫って何が? 燈子ちゃん、今どこにいるの」


 母の返答に胸を撫で下ろす。

 どうやら父は、どこかへ行ったようだ。


「ならいいの。私は公園で友達と話し込んじゃって、今から帰るね」


 そう言って電話を切り、心配そうな顔でこちらを見ている高杉に頷いた。


 高杉と二人で夜の道を歩きながら、先程までの出来事を思い出して恥ずかしくなる。なんとなく、いつもより口数が減ってしまった。


 誰かに、家の事情を打ち明けたのは初めてだった。誰かの前で、小さな子供みたいに泣いたのもたぶん初めてだと思う。


 ずっと、誰にも見せてはいないのだと思っていた。自分には味方がいない。父はもちろん、母だっていなくなる。弱さなんか見せてはいけない。助けてなんて言えない。


 ずっと、そう思って生きてきた。

 でも……。


 ほんの少しだけ自分より高い位置にある高杉の横顔を見つめていると、視線に気づいた高杉がこちらを向いた。


「な、なんですか?」

「なんでもない」

「でも、こっち見てましたよね」


 見てたけど……。


「見てないし」

「え? 見てましたよ」

「見てないって!」


  馬鹿みたいに、同じ言葉を繰り返す。

 ただそれだけのやり取りなのに、何故だかとても楽しかった。鼓動が、いつもより大きく飛び跳ねている。


 これって、もしかしてそう言う事なのかな。

 私は自分に問いかけた。


 隣で歩いている高杉の存在に、私の意識が集中している。


 これって、そう言う事だよね?


 神への想いとはまた違った、初めての感情とのご対面に、どういう訳か笑が込み上げてきた。


「ふふふっ」

「え? な、何で笑うんですか」

「ふふっ、笑ってないし」

「現在進行形で笑ってますし」

「ふはっ。笑ってませーん」

「えっと……、どの口で笑ってないと?」


 意外にしっかり突っ込み返してきた高杉から、逃げるように私は走り出した。


「あ! まっ、待って下さい」


 自転車を押して、走りにくそうに追いかけてくる高杉を振り返って私はまた一人で笑う。


「自転車、乗ればいいのに! なんで歩きにくそうにずっと押してんのよ」


 バカだな、高杉は……。


「ふふふっ」


 でも、めちゃくちゃ良い奴。


「ふふっ」


 ちょっとだけ、好きになっちゃった。


「ウソ」


 結構、かなり、もう大好きかもしれない。


「キャーー。恥ずかしい! 恥ずかしくて死にそう!」


 私は馬鹿みたいに浮かれて、今度はスキップをし始める。


 この感情は人をこんなにもお馬鹿にして、この感情は人をこんなにも嬉しくさせて、この感情を……。


 恋と、呼ぶんだね。

 

 ふと見上げた夜空の月が、そっと頷いてくれた。そんな気がした。



→18話につづく


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