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act…14


 昨日の、時めきを返せコノヤロウ!


 教室に入ってすぐ私は、美化に美化を重ねた昨夜の脳内高杉と、教室の隅で机の一点を見つめて固まっている現実の高杉とのギャップに打ちのめされていた。


「フフッ」


 電話だと最高に格好いいのに。

 現実の高杉は相変わらず微妙な天然パーマのモサモサ君だ。


 昨日は絶妙のタイミングで、「可愛いなと思って」などとミラクル発言をしたと言うのに、その魔法は学校開始のチャイムと同時に効力を失うらしい。


 まぁ、私は声が命だから見た目は気にしないんだけど。

 高杉、いい奴だし。


 なぜかフォローし始めた自分の思考に驚き苦笑する。もしかするとまだ、脳内で妄想ホルモンが暴れているのかもしれない。


 マジで頑張れ、私の判断力!




 朝礼の時間。

 

 担任が一時間目の歴史の授業が自習になると話している。教科担当の先生が、体調不良らしい。歴史の自習と、最近の気になるニュースについて何か一つまとめて提出するようにとプリントが配られた。


 自習のみではサボる生徒がいるので、急いでプリントの課題を作ったようだ。

 サボる気満々だった私は、仕方なくスマホで今日のニュースをチェックした。


 深刻な少子化。政府が画期的な対策を講じる。

 トップページの一番上にある見出しが目に入る。


 その瞬間、なぜか私の妄想スイッチがオンになった!


『本日のトップニュースです』


 昨夜登場した(まぼろし)のイケメン高杉が、最強のインテリアイテム銀縁眼鏡をキリッとかけたスーツ姿で登場し、ニュースを読み始める。


『近年の深刻な少子化により、年金制度の崩壊が確実と言われるなか、政府はオタクの非婚率の高さを問題視し、来春ついに【オタク禁令】を発動すると発表しました』


 これは、由々(ゆゆ)しき事態である。


 オタク禁令が発令されれば、オタク狩りがはじまる。

 日本全国に潜む膨大な数の隠れオタクをあぶり出すため、踏み絵ならぬ各ジャンルの【踏みオタグッズ】が開始されるだろう。

 そして、グッズを踏めない者は非国民とみなされ、即時オタク脳改善の為の更生施設へ強制送還されることになる。


『待って下さい! 息子を連れていかないで!』


 涙を流し止める母。


『そのオタグッズを踏みなさい』

 

 迫る政府職員。


『嫌だ! (せいんと)アイドル・ミルキーキラリ〜私の勇気みんなに届け〜のグッズを踏み付けるなんて僕にはできない!』


 オタク魂を見せる息子。


『踏んで! タカシ! 踏むのよぉおおー!』


 母の願いも虚しく、踏みオタグッズ拒否により連行されていく息子。何という悲劇。こんなことが許されるのか。その後も政府の取り締まりは激化し、ついに秋葉原及び周辺一帯が自衛隊により占拠された。


 その時、オタク達は萌えという名の旗の下に集結し、聖地奪還をめざし立ち上がるのか。ただ、震えながら事態終息を待つのか。


 全国に散らばる隠れオタクの運命は……!


『オタク禁令。〜リア充が爆発する前に俺たちが絶滅しそうです〜』


 2023年・秋。

 全国一斉ロードショー。


  一瞬にして駆け巡った妄想のクオリティに満足して、私は一息ついた。


 いやいや、課題プリントやりなさいよ。

 終わってないから。


 自分で自分に突っ込みを入れて、私はようやく本物のニュースの見出しをクリックする。画期的な政府の少子化対策は、新たな補償制度による子育て支援だった。

 今のところ、オタク禁令が発動する気配はなくホッとする。


 私はこっそり振り返って高杉を見た。


 そう言えば、高杉は勉強はできるのだろうか。ちゃんとノートを書いているなら高杉に見せてもらい、得意科目があるなら教わりたい。


 私たちには理科準備室という秘密基地がある。そこで勉強会だって開けるのだ。高杉なら、きっと優しく教えてくれる。一つ一つ丁寧に説明してくれるだろう。


 そこまで考えた時、また妄想スイッチがオンになりかけて、私は急いでその妄想電源をオフにした。幻のイケメン高杉が、今度は家庭教師姿で登場してくる寸前、なんとか幻の世界にお帰り頂いた。


 危ない、危ない。

 幻のイケメン高杉の格好良さに興奮して、教室で発作を起こしたら大変なことになる。

 

 私は意識を再び課題プリントに戻し、少子化ニュースと書き込んだ。

 そして、「どんなに便利な世の中になっても、未来を生きる子供が健やかに育てる環境が無いと意味がない。子育て支援は、私たちの未来にとって最重要課題であると私は考えます」と意見を記入した。


 よし。

 なんだか、賢い人を(よそお)えているような気がする。


 私は決まった答えが一つだけある問題は苦手だけれど、とりあえず何か書いておけば、部分点はもらえるであろう問題は得意なのだ。


 しかし書き込んだ意見に反して、私は結婚や出産どころか、現実の恋をしたことすらない。


 高杉は、恋をした事があるのだろうか。

 あるとして、どんな人に焦がれるのだろう?


 近頃の私は、気付けばいつも高杉のことを考えている。


 そしてこの後、高杉の声ではなく、高杉自身が私にとっての本物のヒーローとなる出来事が起こる。

 それは、学校から帰宅直後の家の中での出来事だった。


 →15話に続く

 


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