表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

act…11


「とぉ〜こぉ〜」


 翌日、学校へ行くとすぐに未央が駆け寄ってきた。何か頼み事をする時、未央は決まって名前を間延びさせた甘えた声で呼んでくる。


 私は未央の言葉を聞く前に「断る!」と拒否をした。


「言ってない! まだ何も言ってないって!」


 未央が笑って突っ込みを入れる。


「今日のカラオケ、人数合わせで参加してよ。お願い!」


 そう言って未央が両手を合わせた。


 話を聞くと、他校の彼女募集中男子五名と、うちの高校の彼氏募集中女子五名で遊びに行く為の紹介を頼まれているようだった。未央は友達が多く、校内だけにとどまらず、他校からのお誘いも多い。


「燈子が彼氏さん一筋だって事は、よーく分かってるのよ。こういうのが苦手なのも知ってる! でも一人駄目になっちゃってさ、人数きっちり揃える約束でセッティングしたから困ってんのよ。お願い! ね? 駄目?」


 彼氏さん………。


 勿論、私に彼氏はいない。

 幼い頃から神の声に心酔しているので、当然のように今まで彼氏を欲しいと思った事も一度もない。


 それに正直、私の健全なオタクライフを邪魔する相手など、これからの人生においても不要だと私は思っていた。


 だけどそんな事を口にすれば、一発でキモオタ認定されてしまうので、勿論それを口外した事はない。


 しかし、夏の花火大会の時期や、冬のクリスマス前からバレンタインにかけては、私達高校生も友人同士の紹介が多くなり、誘われるたびに断っていては、もの凄く付き合いの悪い奴になってしまう。


 更にはどうして彼氏を作らないのかと、余計な詮索までされる羽目になるのだ。


 クラス替え当初は面倒くさいながらも建前の為に参加していたけれど、そのたびに連絡先の交換や遊びの誘いをやんわりと断らなければならず、正直私はウンザリしていた。


 そこで、私は仕方なく架空彼氏を作り上げて断る事にしたのだ。急いで頭の中の『架空彼氏設定メモ』を開く。


 彼の名前は津田雄馬。神が声を担当したキャラ達の、苗字と名前を掛け合わせた名前だ。そして彼は三つ年上の大学二年生で、三年間ニュージーランドにある姉妹校に留学中という事にしている。


 勿論この架空彼氏がバレたら大変な事になる。妄想で彼氏を作り友達を騙す、ヤバい嘘つき女のレッテルを貼られ、ヒエラルキー最下層に落ちていくだろう。


 この設定を使いだした当初はそのリスクに怯えていたけれど、結局周りから疑いの目を向けられる事は一度も無かった。


 どうしてなのか分からないけれど、『若槻燈子には彼氏がいる』その方が、『若槻燈子には彼氏がいない』よりも周りにとって自然な事だったようで、普段一緒にいる未央や梨絵や茜でさえ疑う様子は無い。


 それどころか、彼氏が三年も留学しているのに浮気など絶対にしないイイ女というポジションが勝手に用意され、とても都合が良かった。


「テスト一週間前だし」


 未央の誘いを断る方向で話を進める。


「燈子さーん。あなた、一週間前からちゃんと勉強する人ですか?」


 痛い所を付かれた。


「でも他に行きたい人いるんじゃないの?」

「たまたま今日はみんな予定が入ってて、梨絵にも来てもらうし!」


 梨絵には彼氏がいるので、同じく人数合わせに呼ばれたのだろう。できれば断りたい。でも、これのせいで未央と気まずくなるのは嫌なので私は仕方なく了承する事にした。


「分かったよ。 未央の頼みだしね」

「ありがとう、燈子〜!」

「それにしても半分以上が実は彼氏持ちって、それの方がバレるとまずいんじゃないの?」


 未央にも彼氏がいる。これでは、ちっとも五人ずつの紹介になっていない。


「実はね。今回は茜ともう一人参加する子への接待なの。私たちは茜やその子の良いところをアピールする盛り上げ要員!」

「なるほど、それなら頑張って協力するよ!」



 私の言葉に、茜が「ありがとう〜」と抱きついてくる。笑い合う私達四人組の声をかき消すように、担任が教室に入ってきた。


「チャイム鳴ったぞ。着席〜!」


 自席へ移動しながら高杉の方に視線を向けると、普段通り背中を丸めてじっとしている彼の姿が見えた。


 高杉はとてもお利口なので、教室であまり見つめないでという私の言葉をしっかり覚えてくれているようだった。


 早く喋りたいな。


 ジャケットの右ポケットに手を入れて、スマホをギュッと握り締める。早く声が聞きたい。高杉とたくさん話したい。


 私は目を閉じて、昨日初めて聞いた高杉の柔らかな笑い声を思い返す。


 その瞬間、まるでサイダーみたいに胸の奥でキュンが弾けた。



→12話に続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ