第5話 襲撃
「ハァ…………ハァ…」
暗く続く一本道の通路内を少女姿のシロヤ
が常人では有り得ない速度で走っていた…
その少女体の表面には薄灰色の光が全身を
覆い包んでいる。
……ここまで来れば…大丈夫だよね。
「ふぅ…………ぁ」
息を切らせたシロヤが地面に座って休憩し
ていると、身体を覆っていた光が段々と消え
ていっていた…
ん~…強化の効果も切れたっぽい…
ぁ………あぁぁ、酷いな…
「これは………ちょっとね…」
その場で立ち上がり自身の格好を見ている。
まだ女性としての体つきでは無いのだが、
右肩や脇腹の辺り他多数の破けた衣服を着て
いる少女の立ち姿が、其処にはあった。
……身嗜みは大切だよね。
(人と出会う前には何とかしよう)
そう心に決めるシロヤだった。
…………
…10分間の休憩後
(筋力強化)
……よし!
少女の身体がさっきの灰色の光で覆われていた。
「……追いかけて来ては…無い」
再び進み始めようとする時、不意に通ってきた
道へ視線を向ける。
…………
…先の道へと走り出していたシロヤが途中に遭遇
した怪物について思い耽っていた。
(結局何だったんだろう)
< 休憩する少し前 >
「ァアィタがィアア!」
「………………」
………ど…どうしよう…
シロヤは足が震えて動けないでいた。
カラン…ベタ………カラン……ベタ…
近付く怪物の足元から甲高い音が鳴ってくる。
(……鎖が…てか)
見てみると、怪物の足首に鎖が付いていた。
(…気持ち悪い)
その風貌は醜い物だった…
不自然に肥大化した上半身の一部は肌が爛れて
いて…その中心に男性らしき頭部が出ていた。
背中からはクモ?の様な脚が何本も蠢く様が…
(うぅぇ)
おぞましい姿でつい声が漏れそうになる…
……!あれは…布?
怪物が動く毎に腰に隠れていた布が目に入る。
……………
「………No.1?」
「アァあアォれハざガぁ」
!!!ッ………………危ねぇ…
布の文字を口にしたと同時に怪物が此方へ猛突
進してきた!
(なんだ…こいつ!?)
咄嗟になんとか、避けられたけど……
天井からパラパラと小石が降ってくる。
その下で怪物が硬い岩壁にめり込んでいた。
当たったらヤバかったぁ…………?
…衣服から、ジュゥゥと言う音が…
「熱!…アチチチチ!!」
肌がぁ!焼けるぅぅ!!!
余りの熱さで咄嗟に地面の砂を肌に押し付ける。
(いッ!……っぁぁ)
痛む脇腹辺りを見てみると…
火傷が酷い箇所は筋繊維が露出していた…
その周辺の肌は真っ赤に染まっている。
(クソ!……すれ違いの時か)
……避けきったと思ったのに…
(…ん)
コレ………服が溶けてる?
自身の衣服を見ると、所々に穴が。
……あの唾液か!?そう考えていると…
ガラ……ガラガラ…っと岩の崩れる音がした。
音の方に視線が行くと…
……………
…怪物が徐々に抜け出ようとしていた。
(まだ寝てろってぇ…)
……………ッ…
ぃ痛っぅ……ぁ、無理無理無理だって!
立とうにも激痛で動けない状態だった。
「アァぁガァアんら……」
(ヤバいなぁ…)
怪物が此方の方に振り向くと唾液を滴ながら呻
き声を上げる。
(MINA………聞こえる?)
危険な状況にシロヤがMINAに呼び掛ける…
………………………
…だが返答は返ってこない。
「…ァアぁ………」
………?
何故か…怪物が動こうとしない。
両の肩をだらんとぶら下げて停止している様子
だった。
…さっきまで俊敏に動いてたのにどうして?
イヤ、動かないならそれでいいんだけど。
そう考えていると…
最初に歩いてきた道の方向から、カチン…と小
石の落ちる音がした。
すると…
小石の音が鳴ったと同時に怪物が動いた。
「アァァガァアダばアぁ!」
(!!?)
鳴った方向に怪物が大声で咆哮を上げる!
(…うるさぁ)
その余りの咆哮にビリビリと振動が身体に伝わ
ってくる程だった。
洞窟内も震えている様にも見える。
耳を塞いでいないと鼓膜がもって逝かれそう…
まあしかし、それよりも…
(音に反応するのか…)
そうと分かれば。
魔法を使う為、シロヤが地面に触れようと耳を
塞いでいた手を外そうと…
「アァァガァアがぁアダァァ!」
直ぐ様、両耳を強く塞ぐ。
…イヤ、ちょっと今は無理!
もう少し待とう…
…………
5分程経つと…
……大人しくなった?
怪物を方を見る。
…咆哮は収まり動きも停止している様だ。
(今度こそ!)
素早く地面に触れて作った石弾を怪物に当たら
ないよう慎重に通ってきた道へと放った!
「あアァァァガァァア!!」
奥の方に飛んでいった石弾の砕けた音に怪物が
即座に反応して走っていく…
(…いまの内に)
そのまま地面に触れていたシロヤが怪物の現れ
た方角の道に進んで行ってくれる物体のイメージ
を思い浮かべる。
すると…
目の前の地面がボコボコと盛り上がる。
(想像より小さい…けど、創れた)
思ったよりも…
無骨で小さなゴーレムが出来上がっていた。
(よし…)
ジーっとシロヤがゴーレムを見て念じる様に…
………………
…しているが、ゴーレムは微動だにしない。
(…やり方が違う?)
ッ……風に当たるだけで…痛い。
重傷の身体でも、何とか立ち上がる。
摺り足でゴーレムの元へ寄る…
そのまま右手をゴーレムの体に置いたシロヤは
頼み込む様に念じていた。
(君が動いてくれないと、ヤバいんだ…頼む)
……………
…すると右手とゴーレムに灰色の光が灯る。
(…大丈夫だよな)
不安になってゴーレムから手を離すと…
ッドッドッド!っと、土埃を巻き上げながらミ
ニゴーレムが猛スピードで駆けて行く姿が。
…もう、見えない。
(…あぁ………いきなり…)
そうやって呆気に取られてると。
「……ァァァ!」
…まだ離れているせいか少し小さいけど。
後方から近付いて来ている…怪物の声が!
…何処か。
隠れられる場所は……ぁ。
用心の為に、体が隠れてられる所を探してたら
壁に案箇所もの小さな空洞?や窪みが見られた。
(この中に入ってよう)
何も……居ないよね?
穴の中は、子供が1人入れる位の大きさだ。
(…今は、この小さい体に感謝しよう)
「アァァガァアらダ!…ァァォ………………」
怪物が通り過ぎると。
段々と聞こえる声が遠くなっていき…
…………
……よし、行ったな。
「痛ッ……」
これ、何とかなるかなぁ…
脇腹の一部溶けた肌から血がにじみ出てくる。
苦悩していたら…
意識の中に項目が浮かんできた。
ー(治療)ー(筋力強化)ー(解錠)ー( )ー
おぉ!
治療が出来る!!
MINAか?…………助かるよ。
相変わらずMINAから返答が返って来ないけど。
とにかく先ずは…
(ヒール!)
利き手で溶けた肌に触れながら治療を行う。
触れている肌箇所の周囲に灰光が灯る。
…サクラ光の時よりも時間が掛かっているけど。
脇腹の痛みが、消えていく……
穴から出たシロヤは自身の体を確認する。
(……治った)
さてと。
3つの道のどれを通って行くか……
…怪物が通った左は、無しとして!
「中央か……右か」
……ん~。
壁沿いの右側で……いいかな。
進む道を決めたシロヤは歩こうと…
!おぉ、筋力強化が有ったんだよな。
(筋力強化)
身体強化をするとシロヤの全身が灰光で輝く。
……手足が、軽い!
その場で適当にジャンプをしてみると。
「わァァ!」
宙に浮いたような感覚が…
下を見ると、地面が凄く遠く見えてしまう!
「っと……………着地危な!」
2㍍近くか、それ以上の高さまで飛んでいた。
(…今の俺、結構強いかも)
そう思ってしまう位、身体機能が向上していた。
< 現在 >
当初と比べて少し狭く成っていた道をシロヤが
突き進んでいると、かなり開けた場所に出ていた。
(………此処は?)
最初に目覚めてから、この場所に来るまでに通
ってきた所には、障害物の様に移動を阻害する岩
々が数多く存在してたのに…
(何も………無さ過ぎる気が)
今いるこの空間には何も無い。
もちろん周りは岩壁だから、洞窟なのは間違い。
……現代のトンネルに近い、かな。
(ゲームならイベント発生だね…)
そう不安な考えが過ったけど構わずに進む…
…………………
……だけど、数100㍍程進んだ辺りで。
(…誰か………人!?)
人影は確認できないが、壁の中に…
ハッキリとシロヤの眼には2つの光が見える。
(茶系と……薄青、か)
近くの壁際近くで、茶色と薄青色の光を放つ2
体生物が待ち構えている様子であった。
(コレ…無かったらヤバかったか?)
自身の瞼を触れたシロヤがそう思案する。
しかし。
……ここからどう行動しよう。
(気付かない振りをするのもなぁ…)
悩んだ末に出た答えは…
「あの~…壁で隠れている方!自分の言葉が通
じるのなら、話をしたいのですが……」
面倒なので直接向こうに語りかける事にした!
すると…
(ぁ……薄青が)
壁の後ろに居た2人の内1人が離れて行った。
(残ったのは茶色の光だけ…)
……どうしよう。
そう考えていたら。
ガラガラっと音がして…
突然、茶光が居る壁の場所に穴が空く。
ぉ、やっと出てきてくれたか…
「あの、話を…」
言葉を開いた所で…
何故か、少しだけ頬に熱さを感じた。
「……………ぇ」
さっと熱い箇所を手で触れると…
……その手のひらには血が付着していた。
隠れているから気になってたけど…
(ぁぁ………やっぱりヤバい奴か)
「はあぁ!!」
壁穴から出てきた中年と思われる男性が現れる
と、手元から複数の石槍を飛ばしてきていた。