10話.[努力したからだ]
「ふふ、良かったわね」
「うん、一美ちゃんのおかげだよ」
それは猫が努力したからだと説明しておく。
というか、彼女が変に頑張らなくても知は最初から好きだった。
恥ずかしいところばかり見せたせいで呆れられている的な弱音を吐いていた彼女。
でも違う、そういうのも知の中でなにかが上がっただけだった。
本当に好きだとかそういうのはなかったから動いた形になる。
変に遠慮していたら上手くいくものも上手くいかなくなるから。
「でも、せっかく新しい下着を着けたのにキスだけなの?」
「あ、焦らなくてもいいかなって」
「そうね、そういうのは自由だものね」
嬉しそうにしてくれているだけで満足だ。
特にできたわけではないからそこまで誇れることではないけれど。
「それに知にしては勇気を出したものね」
「知くんは結構大胆なところがあるよ?」
「そんなのはあなたの前だけよ」
好きな人間のためなら格好良くなれるというのなら。
そういう人間を探してみるのも悪くはないかもしれない。
「知はいい子だったのよ、なのに誰かさんに取られてしまったわ」
「えぇ!? い、いまから取ろうとするのやめてよっ!?」
「ふふ、どうしようかしら?」
「一美ちゃん!」
「冗談よ」
いえ、見ている方が私には合っているわよね。
またなにか困っていそうだったら動こう。
誰かのために動ける時間というのが自分にとって大切だから。