大倭 その1
「この荷物、俺が運んでやるよ」
豊田のおばちゃんへ声を掛けると大倭は意気揚々と台車の取っ手を握りしめる
「あら、それはこの子がやるからいいのよ」
そう言うと豊田のおばちゃんは捺の背を押すが、困惑しているのか捺は微動だにしない
「遠慮すんなよ。おばちゃんは俺の命の恩人なんだから、これくらいさせてよ」
「そうかい…なんだか悪いね」
「いいから、いいから~で、どこに運べばいいんだ?」
「とりあえずお勝手の方へ行ってくれるかい」
「了解~」
砂利の上をガタガタと大きな音を揺らしながら、大倭は段ボールの積まれた台車を軽々と押し進めて行く。
楽しげに笑い合う大倭とおばちゃんの姿を見詰めながら、琴は苦笑いを浮かべた
「ほんと大倭って天然のタラシだよね…」
芙美はその言葉に深く同意した。
子供の頃から大倭の性格は能天気で八方美人だった。
良く言えば明るく社交的と言えるため、近所のおばさま達からは絶大な人気があった。大倭ばかりがチヤホヤされ一緒に買い物に行けば大倭だけちょっとしたオマケを貰うなんてのは当たり前で、芙美はそういったおばさま達の態度に不満を募らせたものだった。
更に、大倭が小学生のころ同じクラスに乱暴な苛めっ子がいたのだが、喧嘩では勝てないと考えた大倭はその母親と祖母に愛想を振り撒くと自分贔屓にする事に成功した。そうして苛めっ子の数々の弱味を聞き出すと、卑怯にも脅すという荒業をやってのけていた。
まぁ、お陰で苛めっ子はすっかり大人しくなったのだが、芙美はそんな弟の将来を見据えて女性関係で痛い目に合うのではないかと一抹の不安を感じた。




