芙美と大倭 その4
近隣の子供達にとっては物心が付く頃から親しく接している豊田のおばちゃんは親戚や家族のような存在でもあった
「なぁ~おばちゃん、あの人だれ?」
だいぶ落ち着きを取り戻した大倭だったが目と鼻にはまだ少し赤みが残っていた。大倭は豊田のおばちゃんの背後にいた見知らぬ人物に目を止めると不思議そうに視線を向ける。この辺りは小さな町という事もあり先祖代々に渡ってこの土地に住んでいる世帯が多いせいか、子供の頃から顔を付き合わせる相手というのがずっと変わらなかった。祭の時などは近隣の地域から人が集まるので気にはならないが、それ以外で見慣れない人物がいると妙に人目を引いてしまうのだった。
特に豊田のおばちゃんの背後にいた人物というのが、全体的に丸く肉厚な体型の豊田のおばちゃんと並んでも見劣りしないどころか、背丈は170㎝はありそうなほど大きく、脂肪というよりは全体的に筋肉質な印象を受ける女性だったからだ。しかし視線を避けるように身体は前屈みに丸め、長く垂らした前髪で表情が読み取れないせいか酷く暗い雰囲気を醸し出していた。
「あぁ、この子は捺って言ってね遠くの親戚の子なんだよ。ちょっと訳があって暫くのあいだ、うちで預かる事になったんだ」
「へぇ~親戚なんだ。あんま似てないね」
「歳は大倭ちゃん達より、だいぶ年上だけど仲良くしてやってね。私ももう歳だし…膝の具合も良くないから、時々こうやって配達に来るかもしれないから」
「おばちゃん、膝が悪いのか!?」
「歳を取ると膝だけじゃなく、あっちこっちにガタが来るもんだから仕方ないんだよ」
「…」
笑いながら語る豊田のおばちゃんの姿に、大倭はふと寂しさを感じた
「あの、私はここの神社の娘で琴って言います。これから宜しくお願いします」
琴は荷物を載せた台車の横で立ち尽くしている捺の前へ向かうと丁寧に挨拶をする
「……」
にこやかな笑顔を浮かべる琴とは対照的に、捺は微かに唇を動かすと逃げるように後退った
「ごめんなさいね。この子、人見知りなんだか上手く人と話せないのよ。私ともあまり話さないし…いい歳なんだから挨拶ぐらいは、しっかりしないと駄目だって言ってるんだけどね」
豊田のおばちゃんは深い溜め息と共に捺を見上げるが、捺は決してその眼を見ようとはしなかった。




