エピローグ
捺が捕まった事はあっという間に広がり、小さな町はその話題で持ちきりとなった。捺は警察署での取り調べでも自分は悪く無いと言い張り全ては芙美達が悪いのだと語っているらしいが、それを裏付ける物証も聞き入れる者もいなかった。
芙美達3人はと言えば、犯人を捕まえた褒美に警察署から感謝状が贈られ、この町を救った英雄の様な扱いを受けて一躍人気者となっていた。
「豊田のおばちゃんもだいぶ元気になって良かったよね」
「そうだね…」
犯人が捺だと分かった時の豊田のおばちゃん姿は芙美達にとって見ていられない姿だった。いつもの明るい笑顔は消え失せ憔悴した様子で何度も周囲の人達へ頭を下げている姿を目にし、犯人を捕まえ警察に引き渡した事は正しかったのだろうかと胸が痛んだ。
「大倭くんがしょっちゅう会いに行ってるもんね。そういうとこ何気に優しいよね」
そう話す孝美の頬に朱が差して見えるのはきっと気のせいでは無いのだろう。
労働力でもあった捺がいなくなり、おばちゃんの仕事への負担が大きくなった事を心配した大倭は空いてる時間を見付けては商店の手伝いを買って出ていたのだ。その大倭のお陰もあり、豊田のおばちゃんも徐々にだが明るさを取り戻していった。
神社の境内にある池の畔に設置されたベンチに座りながら、琴と孝美は買ったばかりのクレープに齧りついている。
夏もすっかり過ぎ去り、数匹のトンボが池の上を優雅に飛んでいる。
「でもさ~犯人も捕まっちゃったから、私達もする事が無くなっちゃったよね」
犯人探しに躍起になっていたお陰で毎日忙しい日々を過ごしていたが、目的が達成されてしまえば、また以前のように学校帰りにこうして神社で時間を潰す生活に戻ってしまった。
「もうすぐ受験なんだから勉強があるでしょう」
「もう、そういうこと言わないでよ~考えるだけで気が滅入るから」
「2人とも頑張ってね応援してるよ」
神社の跡取りである琴は受験とは無縁だが、県外への大学を受験する予定の孝美は露骨に苦い顔を見せる。
それぞれ口には出さないが、高校を卒業すればバラバラになってしまう事が寂しくて堪らなかった。
「ねぇねぇ、あそこで隠れてこっちを見てる奴等って芙美のかな?」
「あぁ~…だろうね、芙美のだね」
「ちょっと変な言い方しないでよ!私のじゃないわよ失礼ね!!」
池の対岸から芙美達のいる場所を見つめながら色めき立った男どもが数人目につく。幾つもの視線は1人の少女の動きを追いながら騒々しい声を上げている。
彼等は近ごろ現れた芙美のファンと呼ばれる集団だ。
その原因となったのは捺を捕まえる時にひっそりと撮られた映像だった。
玩具の刀を振り回しながら犯人を倒した時の様子は、申しわけ程度のモザイク処理を顔に施し動画サイトにあげられていた。
犯人は程なくして見付かったが、予想通り捺の隣の部屋に住むあの男によるものだった。動画はすぐに削除させたのだが、拡散してしまった動画を完全に消すことは不可能だった。
そうして動画を見た男達が連日のように芙美の前に現れる日々が続いていた。
「芙美と大倭ってさ、似た者姉弟よね」
「うん。2人とも変なのに好かれやすいのは血のせいだっだんだね」
生クリームがたっぷりと入ったクレープを咀嚼しながら琴と孝美は染々と呟く。
「止めてよ、縁起でもない…」
「芙美が拐われたら私達がちゃんと助けに行くから安心してね」
「うん!任せて!」
「いや…そんなの不安しかないんだけど」
琴と孝美の顔を見比べながら芙美は恐ろしさに身震いする。
「それよりもさ、捺さんの部屋に大倭くんにそっくりなアニメのポスターがいっぱいあったでしょ」
孝美が言いにくそう口を開く。
「あぁ~確か赤い髪の毛した男の子のヤツだよね。それがどうかしたの?」
「ちょっとだけ気になったからさ、見てみたんだけどね…そしたらそれがすっごく面白くってさ~主人公の小国蹴人が大倭くんに似てるの!似てるって言うかもう大倭くんがモデルなんじゃないかな?ってくらいそっくりであれはヤバいわ~」
「何がヤバいの?」
「そりゃあ~何ていうか男同士の汗と友情っていうか…あぁっ、大倭くん!!」
得意満面に語っていたが、突如現れた大倭の姿に孝美はあからさまに狼狽える。
「いや、あの、違くて…や、大倭くんは今からどこかへ行くの」
「あぁ~神社には配達に来ただけ」
素っ気なく応えると大倭は止めてある自分の自転車を指差した。自転車の荷台にはみかん箱程の段ボール箱が括り付けられており、中には幾つかの野菜と乾物が入っていた。
「俺なんて忙しくて大変だっていうのによ~暇そうで羨ましいよ」
「忙しいなら早く行きなさいよ。配達に遅れるから私達に構ってる場合じゃないでしょう。それとももしかして淋しくて構って欲しかったの?」
「そ、そんなわけ無いだろ!たまたま見掛けたから話し掛けてやっただけだ!」
芙美の言葉に大倭は思わずムキになって
反論するが以前と比べると刺々しさは無くなっていた。監禁され大泣きしているところを助けられて以来芙美に対して強く出られないどころか、より一層頭が上がらない状態になっていた。
「あら、それはわざわざありがとう。そんなに私と話したかったなんて気付かなかったわ。大倭ったらいつの間にそんなにお姉ちゃん子になったのかしら」
揶揄うような芙美の口調に大倭は途端に恥ずかしさで顔を赤くさせる。
「はぁ?!一言もそんなこと言ってねぇだろ!」
「あぁ~はいはい。大きな声を出さないの、これあげるから食べていいわよ」
芙美は食べ掛けのツナとチーズのクレープを大倭の口へ無理やり突っ込むと、荷台に段ボール箱を乗せた大倭の自転車へと向かった。
「仕方ないから"優しいお姉ちゃん"が手伝ってあげるわよ」
「はぁ~っ??頼んでねぇし」
「そうだね。大倭にばっかり好い顔されても悔しいしね」
「賛成~!」
「お前等まで何なんだよ?!」
呆然とする大倭を放って芙美達3人は境内の奥へと進んで行くと敷き詰められた玉砂利が急かすように音を鳴らす。
「大倭~置いてくよ~」
声高に叫ぶ芙美の言葉に大倭は足早に駆け出した。




