大倭 その5
掛けられた声に大倭の身体は反射的にびくりと跳ね上がり声の主へと顔をむける。全身の毛が総毛立つような感覚は目の前に現れた人物の異様な出で立ちのせいだろう。
明かりがあまり届かない薄暗い入り口に立ち大倭を見詰める視線は品定めでもするように全身を舐めまわす。その不愉快な視線は執着すら感じさせ、大倭に更なる恐れを抱かせた。
大倭よりは幾分、背は小さいのだが筋肉質で厚みのある身体が入り口を塞いでいた。
細身の大倭が体当たりをしたくらいでは入り口を突破する事は難しそうだ。
しかし、なぜ筋肉質だと言い切れるのかといえば身に付けている物がノースリーブの真っ白いワンピース1枚だったからだ。無防備に晒された肩と腕は隆々とした厚みがあるが、胸先から腹部に掛けてはふくよかな丸みがあり目の前にいる人物が女性である事を示唆していた。
「ずっと眠ったままだったらどうしようかと思ったんだぞ」
砕けた口調とは裏腹にその面立ちは異常とも言える姿だった。
塗りたくられた肌は暗闇でも浮かび上がるほど不自然に白く、目の周りは藍染でもしたような鮮やかな青に縁取られ、その上を黒い線が伸びていく。
厚みのあるぽってりとした唇からは、はみ出したピンク色の口紅が更に口を大きく見せている。
顔全体に施された奇異な化粧のせいで、素顔を推察する事は出来なかった。
「そうだ!お腹すいたでしょう~ご飯が出来てるから食べましょう」
言われてみればドアの向こうからは何やら空腹を刺激するような良い匂いが漂ってくる。いつもであればその匂いに刺激され直ぐさま飛び付くところなのだが、今の大倭には食欲どころか空腹感も無く、全くそれどころでは無かった。
「あ、あんた…誰なんだ……」
発せられた言葉は掠れて聞き取り難いものだったが、女の耳にはしっかりと届いたようだ。その証拠に女の顔はみるみる赤くなり、ピンク色の唇を不恰好に歪ませた。
「"あんた"って違うでしょ!!!いつもみたいに"捺"って名前で読んでよ!!」
乱暴に浴びせられた名前に大倭は耳を疑った。
「な…な…つ…さん…?」
大倭が知るその名前の人物とは、見た目も受ける印象も随分と違うが、肉厚な体型と170cmはありそうな大きな背丈は、言われてみれば思い当たるものがあった。
「そう、捺よ」
薄らと頬を赤く色付かせると、捺は腕を広げ自身の大きな身体を怯える大倭に擦り寄せた。




