大倭 その4
肌に感じる柔らかな感触に反して、身体に残る痛みに身を捩る。だが何故だか身体を上手く動かす事が出来ない、どうやら手足を紐のようなもので縛られているみたいだ。
重く閉じていた瞼を開くとやや大きめなベッドの上に寝かされていた。
身体の至るところには痛みがあり、特に脇腹と背中には鋭い痛みが残っていた。
まだ朧気な意識のなか、大倭は倒れる直前の記憶を辿る。
「俺は……俺はヘタレじゃねぇ!!!」
そう言って犯人の前に飛び出したが、犯人は怯むだころか大倭の顔を見るなり不適な笑みを浮かべた。
バカにされたと感じた大倭は勢いのまま犯人に掴みかかったが、そのとき大倭の耳には聞き慣れない放電音と細い光が幾つも目に飛び込んで来ると、鋭い痛みが全身を駆け巡りあっという間に意識を手離した。
"あれはスタンガンか…"
初めて体感した痛みを思い返し全身が硬直する。
"それにしても、ここはどこなんだ…"
目だけをゆっくりと動かすと辺りを探るように彷徨わせる。
ベッドの横には小さなサイドテーブルが設置され、その上に置かれた簡素なスタンドライトが辺りを仄かに照らしている。
どこかの部屋ではあるが、スタンドライトの小さな灯りだけでは部屋全体を窺い知る事は出来ない。しかし、そんな状態でも大倭はこの部屋がホテルの一室な、どでは無く民家の一室だという事は直ぐに理解をした。
"まさか犯人の家なのか…"
過った瞬間、不安と恐怖で全身が粟立つのを感じた。
兎に角ここから逃げなくては…
この部屋には自分以外の人間の気配は無い、どうやら気を失っているからと1人にしておいたのだろう、逃げるなら今しかない。
寝かされていたベッドの上で無理やり身体を引き起こすと身を屈めて足の紐に指を掛ける。しかし予想以上に固く結ばれた紐は上手く解く事が出来ない。
"クソッ!!"
焦りが苛立ちとなり指先に緊張が走る。
小刻みに何か紐を切るような物はないのかと、ベッドサイドのテーブルに腕を伸ばした途端、大倭の身体はグラリと揺れる。
"ヤバい!!!"
何とか身体を支えようと腕を伸ばすが、結ばれた手首では支える事が出来ず、その身体は大きな音と共にベッド下へと転がっていった。
床の上に勢いよく投げ出されたが、絨毯が敷かれていたせいかそれほど痛みは無い。それよりも犯人に気付かれる前に逃げるほうが先だった。
床の上を虫のように這いずりまわり、ようやく1つの扉を見付ける。
"あった!!"
それは何の変哲のない木製の扉だったが、大倭にとっては生きる為の希望の扉に思えた。
大倭はうつ伏せの身体を壁に預けると、何とか身体を引き上げる。
壁にもたれたままドアノブに手を伸ばした途端、それよりも先にドアノブはガチャリと音を立てた。
開いた扉の奥からは大きな人影が覗く。
「あら~やっと目が覚めたのね」
その口調はどこか弾むような声色を感じさせた。




