囮作戦 その2
公園通りに差し掛かると辺りの静けさは一層増していく。この通りを突き進むと公園へと辿り着くのだが、住宅街によくある遊具が設置された公園とは違い、樹木が多く溢れる総合公園のため夜ともなると人の気配など全く無かった。
「そんな事よりも2人ともちゃんと後を付いてきてるんでしょうね」
そう言うと芙美は首を捻り、ぼんやりとした灯りに照らされた道路に視線を彷徨わせる。
「大丈夫、大丈夫。すぐに追い付くと思うから」
孝美のその言葉に芙美は驚いたように声を上げる。
「えっ?!後ろを付いて来てたんじゃないの?」
「だって芙美が突然走りだしたりするからさ~私も琴も慌てたんだからね」
「そうそう~焦ったよね!」
耳元のイヤホンからは不満気な孝美と琴の声が流れてくる。
「それは2人が変な事を言って笑わせるからでしょう、もう私が悪いって言うの?」
「だって時計屋のおじちゃんと芙美の話しがあんまりにも長いからさ~」
「そうそう~長かったよね!おじちゃんが"今から~20年くらい前にうちに泥棒が入った時になぁ~"って言い出した時は、ヤバい話しが長くなるって焦ったもん」
「思った思った~てか琴の物まねヤバすぎ!そっくりだから」
琴は甲高い声色で先程の時計屋の主人の口調を真似ると、ツボに入ったのか孝美は苦しそうに笑い続ける。
「もう2人していつまでもふざけてないで早くしてよ!とりあえず公園の入口で待ってるからね!」
しっかりしていると言っても芙美はまだ高校生だ。虫の音のくらいしか聞こえぬ暗い夜道に1人で佇んでいれば言い知れぬ恐怖感に襲われてしまうのも当然だ。
公園の入口から敷地内に視線を向けるが、街灯の周り以外は草木に覆われ様子を窺い知る事が出来ない。
子供の頃から何度となく訪れた公園のはずなのに何故か今日は薄気味悪く感じてしまう。
「ねぇ、まだ着かないの?」
怯えからなのか、芙美の声は若干震えている。
「琴、孝美、聞いてる?」
しかしイヤホンからは2人の声どころか物音1つ聞こえてこない。
「ちょっと…ふざけてるなら止めてよね!」
震える声には焦りが見える。
芙美はポケットに手を伸ばすとスマホを取り出す。画面には通話中の文字が映し出されている。
「琴!孝美!!」
「……ぷっ、ふふふふっ」
涙混じりな芙美の声に応じたのか、ようやくイヤホンからは笑い声と共に能天気な声が届く。
「ごめん、ごめん聞こえてる~」
「……どういう、こと?」
「私は止めなよって言ったんだけど、孝美がちょっとイタズラしちゃう?って言い出してさ~」
「ちょっと、私のせいにしないでよ~琴が勝手に始めたんでしょ」
「孝美だってノリノリだったじゃん」
「いや、私は止めたほうがいいよって言ったもん」
「えぇ~言ってないよ~」
「いや言いました!」
言ったかどうかなど芙美にとってはどうでもいい話しなのだが耳元で続けられる2人の擦り付け合いに、芙美の眉間には深い皺が刻まれていく。
「そんな事どっちでもいいから!!冗談にしては酷すぎる。今はそういう悪ふざけをしている場合じゃないでしょう」
「ごめんてば~そんなに怒らないでよ」
「芙美様ごめんなさいもうしません!」
芙美の怒気に気圧されたのか2人は慌てて謝罪の言葉を並べる。
「もういいから、2人とも早くー…」
言い掛けた芙美の言葉は不穏な物音に遮られ最後まで発せられる事は無かった。




