捜査開始 その9
ようやく止まった自転車から降りると、芙美はアスファルトの上を踏みしめるが恐怖心からか膝はがくがくと震え上手く立つ事が出来ない。何とか自身の身体を支えるが前に足が出ない。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。心配いらないわ」
大倭に弱味を見せたくなくて、芙美は無理やり強がって見せる。
「芙美、大倭~大丈夫!!」
「2人とも怪我は無い?!!」
後ろを走っていた琴と孝美はやっとの事で追い付くと、自転車を投げ出して2人の元へと駆け寄って行く。
「うん、何とか…大丈夫」
「良かった~心配したんだから!」
「ほんと焦ったよ!!でも怪我が無くて良かった」
安堵した琴と孝美は勢いのまま芙美に抱きつくとその腕に力を込めた。
「い、痛いよ、2人とも…」
しかし芙美は腕を振り払う事もなく、その痛みに怪我も無く無事に生きている事を実感した。
「それもこれも俺様のお陰だよな~」
大倭はそう言うと得意気に胸を張ってみせる。
「……まぁ…ね」
今回ばかりは感謝しかないため芙美も素直に同意する。
「大倭も大丈夫だった?怪我は無い?」
「あぁ~、靴の底がだいぶ擦れたけど、後はとりあえず平気平気」
スニーカーの底を見ると少しばかり削れていたが、それくらいで済んだのは奇跡としか言いようがない。
「でもさ自転車を止める時なんて凄かったよね!大倭くんの腕がバーッと伸びて芙美の自転車のハンドルを掴んだと思ったらさ、ブレーキのキキーッて音がして、そしたら大倭くんの足がガガガガーッて道路の上を滑ってったら急にピタッて止まるんだもん!!もう後ろで見ててドキドキしたよ~もうアクション映画みたいだった!」
孝美は興奮した様子で一気に捲し立てると何かを思い出すように額を抑えた。
「カメラさえあればなぁ~今のシーンなんて写真や動画に納めたら絶対にバズッてたよね!衝撃シーンとしてテレビとか雑誌に取り上げられたのになぁ~残念」
悔しそうな孝美を横目に芙美は眉根を寄せると口を尖らせた。
「止めてよ、こっちは死ぬかと思ったんだからね。もしそんな事してたら絶交するから」
「そうそう、大事な友達が危険な目に遭ってるとこを写真や動画に撮りたいだなんてよくないよ」
同意するように隣で琴も頷く。
「えっ…いや、冗談…ほら、ほんの冗談だからさ」
「「……。」」
慌てて弁解するが2人の視線は冷たい。
「……ごめんなさい」
2人の様子にばつの悪くなった孝美は静かに頭を下げると素直に謝罪の言葉を口にした。
「おい、お前らそんな事よりこのブレーキのワイヤー見てみろ。これ何か刃物で切られてねぇか?」
「「「えっ?!!」」」
そう言うと大倭は綺麗に切断されたワイヤーの断面を3人へと向けた。
「本当だ…どうしてこんな…」
自転車のハンドルから伸びたブレーキのワイヤーは車輪の手前で切られており、その断面は刃物で切られた様に整っていた。
「今度は芙美が狙われたってこと?!」
「まさか…」
3人の視線は一斉に芙美へと向けられる。
予想していなかった言葉に芙美は切断されたワイヤーを眺めながら呆然と立ち竦んだ。




