捜査開始 その6
立ち込めていた蒸し暑い空気のなか、意気揚々と歩き続けた4人だったが犯人に繋がるような情報も得られず時間の経過と共に体力だけが消耗していた。
そうして気が付けば振り出しへと戻ってしまった。
「結局ここに戻って来ちゃったね…」
すっかり見慣れたベンチに身体を預け、芙美は一言だけ呟くとそのまま黙って目を閉じた。
「もう~無理~ほんと無理!足が痛いし疲れた、もう一歩も動けないからね~」
「私もちょっと無理だわ…疲れた」
誰に言うともなく一気に捲し立てる琴の様子に孝美もさすがに同意せざるを得なかった。
ひっそりと静まり返るバスのロータリーには、ベンチにぐったりと横たわった女子高生3人の異様な姿があったが、人も車も通らないこの場所では騒ぎにもならないだろう。
「情けねぇなぁ~もうへばったのかよ!」
3人へ小馬鹿にした視線を向けると大倭は外国人のように両腕を広げて肩を竦めた。
「うるさい。体力だけしか取り柄のないヤツにとやかく言われたくないわ」
「へぇ~体力は無くても口はよく動くんだな~」
そう言うと大倭は大きく口を開けると赤い舌を出して大袈裟に動かして見せる。
そんな大倭の冷やかしに芙美は目を見開くとその大きな黒い瞳は鋭く獲物を捉えた。
「…ちょっと何でシレッとあんただけアイス食べてんのよ!」
不適な笑みを湛えている大倭の手には棒の付いた淡いブルーのアイスキャンディがこれ見よがしに握られていた。
「そりゃあさっき貰ったからな」
そう何故か大倭が道路や庭先で見掛けた住人へ声を掛けると、別れ際にお土産だと言って小分けされた小さなお菓子や果物を次々に渡されていき気が付けばちょっとしたスーパー帰りのようにビニール袋を抱えていた。
そしてそれらの贈り物をしてくるのは一様に中高年の女性だった。こんな赤い髪の毛をしたバカで煩くてチャラい男をチヤホヤする事に芙美は首を捻るばかりだった。
「訂正するわ、あんた体力以外にも取り柄があったわ。その人タラシな才能を生かして将来は誰かに養って貰いなさい」
「なんだそれ、またバカにしてるのか」
「バカにしてないわよ、ある意味感心しているのよ。とりあえずそのアイス寄越しなさい」
「やだね」
「いいから寄越しなさいよ!」
そう言うと芙美は身体を起こして腕を伸ばすがアイスまであと少しのところで、その手は払い除けられた。
「痛っ、何すんのよ!」
払われた手を擦り不服そうに見上げる芙美の姿に大倭は口の端を吊り上げて目を細めた。
「仕方ないなぁ~そんなにおやつが欲しいなら、俺は鬼じゃないから少しだけなら分けてやるよ。ほらっ」
そう言って手にしていた白いビニール袋から小さな包みを取り出すと芙美に向かって放り投げた。
芙美は両手で受け取ると、手の中にある物へ視線を落とした。それは梅の花に象られた茶色い皮に餡子がぎっしり詰まった最中だった。
「この暑くて疲れきってる状態で口の中の水分全部を持ってくような食べ物なんか食べられるか!!アイスを寄越せ~」
「無理だね~もう食べちゃったし~アハハハッ」
「何なのあんたムカつく!!!」
「いつもの仕返しだ~ざまぁみろ~」
傍らでの騒々しいやり取りに琴と孝美は心身共に全く休まらず2人は諦めたように立ち上がると、冷たい飲み物の並んだ自販機へと向かって歩き出した。




