捜査開始 その3
バスのロータリーに置かれたベンチには2人ほど高齢者が腰を下ろしバスを待つ姿が見受けられた。
バスは1時間に2本しかないため乗り損なうと30分は待たなければならなかった、そのせいか高齢者以外でバスを利用する者は少なかった
空きだらけの駐輪場へ自転車を止めると、大倭を含めた4人は置かれていたベンチへ座ると作戦会議を練り始める。
「それで~これからどうするの?」
琴は自販機で購入したばかりのスポーツ飲料を握りしめると3人の顔をゆっくりと眺める。
「犯人がどこに潜んでいるか分からないから、とりあえず端から順番に歩いて調べて行こうと思って。こういうのをローラー作戦って言うんでしょ!」
数日前の夜に刑事物のドラマでやっているのを見たせいか、孝美は嬉々として提案する。
「えっ…と孝美さん。それはつまり、この住宅地を"ただ"歩き回るってこと?」
「だって自転車だと犯人に気付かれないかもしれないでしょ歩いてる方がこっちも向こうも気付くと思うの」
孝美は簡単そうに言うが、ここは丘と言っても完全に小さな山だ。端から端まで歩いて調べるなど想像しただけで芙美は絶望的な気持ちになり大きな溜め息を吐き出した。
手にしていたペットボトルからは一筋の雫が腕に流れていく。その感触に芙美はハッとして視線を落とすとペットボトルを口に含んだ。レモンウォーターの冷んやりとした甘酸っぱさが喉の乾きを潤していく。
「あら、あんた達こんな所で何してるの?!」
不意に呼び掛けられた声に4人は揃って顔だけ向けると、驚いた表情を浮かべた恰幅のよい中年の女性とその後を追うように段ボールが山積みされた台車を押した大柄な人物がこちらへと近づいて来る。
「豊田のおばちゃんと捺さん!」
芙美は思わず琴へ視線を向けると、琴も戸惑いの表情で芙美を見詰めていた。
「おぉ~豊田のおばちゃん!おばちゃんこそ何でこんな所にいるんだ?俺達さっき来たんだけどさ、ここって何も無くてマジでびっくりしてたとこ~」
「だからだよ」
「だから??」
能天気な大倭の言葉に豊田のおばちゃんは笑みを溢す。
「この辺りには店が無いだろう。だからこの辺の人が米やら酒なんて重い物とか日用品なんかの注文を沢山してくれるんだよ」
その言葉通り、捺が押している台車の荷台は米やビールを中心に高く積み上げられていた。
「それで、あんた達4人は揃っていったいどうしたんだい?」
「あぁ~俺たちは例の犯人をさがー…」
「あああぁ~っ!!私たちは~ほらあれ!!!あれよね芙美~?」
大倭が言いかけた瞬間に琴は遮るように、よく響く通る声で大きな声をあげた。
「そ、そうそう~えっとぉ~学校の宿題で~町の移り変わりをテーマにしててレポートがあって~この山を調べてたんです~」
「(芙美ナイス!)」
琴は思わず親指を立てて芙美にサインを送る。
「そうなの~かなり面倒だけど、芙美と孝美と頑張って調べてたんだ~」
「お前らさっきから何言ってんだ…宿題なんかして無いー…うわっ!!」
芙美は大慌てで大倭の口を手で覆うと、静かにしろ!とばかりに眉間に皺を寄せて睨み付けた。




