捜査開始 その2
傾斜のキツい坂道を何とか上りきると、それだけで芙美の体力はもう限界に近かった。一思いに地面に倒れ込みたい心境だが、既の所で踏み止まっていた。
「こんな坂道だらけなんて聞いてないんだけど…」
「並んでいる家はイイ感じだけど、この坂は流石に私でも無理だわ」
「琴が無理なら私や芙美なんてもっと無理だよ~遠くから眺めてるだけだと綺麗なんだけどね、実際は分からないもんだね」
3人の口からは不満と愚痴が自然と零れ落ちていく。
「もう汗で身体中がベトベトだし気持ち悪い!軽くシャワー浴びたい」
「ほんと汗臭い!もうヤダ~!!」
Tシャツに染み付いた汗に芙美と琴は顔をしかめる。
「よし!次からここへ来る時は車かバスで来る事にしよう。もう自転車は止めよう!」
「えっ!!もしかしてまた来るつもりなの!?」
孝美の言葉に驚きを隠せず芙美は一層大きな声を上げた。その様子に孝美は当然とばかりに言葉を続ける。
「犯人を捕まえたんならそりゃあもう来ないで済むけど、まだ捕まえてないんだからこの先どうなるかは分からないでしょ」
「…まあ、そうだけど」
「犯人を取っ捕まえて大事なカメラを取り戻すまで、闘うんだからね。琴だって襲われた仕返しをしたいでしょ!」
「うん、もちろん。やられた分きっちりと100倍にして返してやらないとね!」
2人の熱意に気圧されて芙美は何も言えなくなってしまった。幸いにして大きな怪我は無かったものの、襲われた2人にしてみたら犯人は何としても捕まえてやりたいと思うのは当然の事だ。芙美は半ば諦めたように頭を下げた。
「おい…お前ら話しは終わったのかよ。さっきから見てれば人の事を完全に無視しやがって、少しは人の話しを聞けよ」
芙美は自身に掛けられた声に思わず顔を向けると、そこには苛立った様子の大倭が腕組みをして仁王立ちしていた。
「大倭?!何であんたがこんな場所にいるのよ!」
「さっきからいただろ白々しい」
「えぇっ!!全く気が付かなかったわ」
「嘘をつけ」
3人は一斉に首を振る。
夢中で話し込んでいた3人は大倭の存在には全く気が付いていなかったのだ。
「それで何であんたがここにいるの?もしかして私達の後を付けて来たの?」
「ちげぇよ!俺は犯人を捕まえに行くけど怖いからお願いだから来てくれって言われたから"仕方なく来てやった"んだよ」
「頼まれたって、誰がそんな…」
と言いかけて、芙美は孝美へ視線を移す。
「孝美、もしかしてあんた…」
「だって~琴も襲われたし~万が一に犯人と出くわしたりしたら女3人じゃ危ないでしょ!だから大倭くんに一緒に来てってお願いしちゃった♡」
「しちゃった♡じゃないでしょう…」
格闘技を習っているような筋肉隆々な男性ならともかく、大倭の体格といったら身長はそれなりにあるとしてもその厚みの無い薄い身体には筋肉と呼べるものなど、ほぼ装備されていなかった。
そもそも家での大倭はスマホ、漫画、鏡を眺めるくらいしかしないので筋肉など付くはずも無かった。
その大倭を連れて行ったところで何の役に立つのかと、芙美は頭を抱えるしかなかった。




