神社 その5
見慣れた白衣と緋袴を身に付けた女性は、黒く長い髪の毛を地面の上へ垂らし横たえている。その姿は寝そべって昼寝をしてるわけでは無く、明かに何かここで起きたんだと示唆していた。
「琴!琴、大丈夫!琴!!」
その声は上擦り恐怖が滲んでいる。
「琴、琴…」
呼び掛けるその声にいつもの様な返答は無い。
力なく地面の上に投げ出された琴の身体を何度も揺するが、閉じられた瞼は開く事は無かった。
「やだ…嘘でしょ…どうして…」
震える指先が琴の頬に触れるとしっとりと汗ばんだその肌はまだ十分に温かかく、ほんの数分前まで当たり前のように動いていた事を物語っていた。
「琴、琴、琴!!!死んじゃ嫌だよ!!!」
風に揺れる木々の音を裂くように、芙美の叫声が周囲に響き渡る。何度も繰り返し叫ぶ友の名前はやがて悲鳴となり、言葉としての形態を維持してはいなかった。
「勝手に殺すな!!」
「……えっ!?」
「ちゃんと生きてるから…イタタッ」
琴はどこか痛むのか呻き声をあげながらゆっくりと身体を起こしていくが、突如として首元に激しい息苦しさと耳鳴りを感じて顔を歪める。そして、その原因は自分が生きていた事に安堵した芙美が首にしがみつき泣き喚いているせいだと瞬時に悟った。
「く…くるしい…ちょ…ふ…み」
「こ、ことぉぉ!!もうぉ!!!わたし…琴が死んだかと思ったんだからね!!」
「う、うん。わかった…わかったから、ちょっと…は、はなして…苦しいし、み、耳が…壊れるでしょ!!!」
限界が訪れた琴は張り付いていた芙美の身体を乱暴に払い除けるが、何故か芙美は夢では無いと安堵した様子で笑みを漏らす。
「イタタッ…」
「だ、大丈夫!!」
どこか痛むのか琴は額を押さえ苦悶の表情を浮かべる。
「なんか後頭部が痛い…」
芙美は急いで琴が身に付けていたカツラを取り外すと後頭部に手を伸ばす。汗で湿ったオレンジ色の髪に指を滑らせていくと小さな膨らみに指が触れる。
「痛っ!!」
「これは……たんこぶが出来てるわ」
「マジで~何かズキズキすると思った…」
「とりあえず病院に行こう」
そう言うと芙美は琴の身体を抱えながら社務所へ向かう事にした。




