神社 その4
琴の姿を見送ると、部屋に1人取り残された芙美は時間を持て余す。
「暇だし授与所の片付けでもしとこうかな」
誰に言うともなく独り言ちると、芙美は突として席を立ち授与所へと向かった。
授与所へ到着すると芙美は棚に並べられた御守りや絵馬の数を数え始める。それが終わると今度はおみくじの賽銭を回収し確認をする。手慣れた様子でこなしていくと早々に作業を終えてしまい、また時間を持て余し始める。
「琴、遅いなぁ~…」
あれから随分と時間が経ったはずだ、そろそろ戻って来てもいい頃なのに琴は一向に現れない。
芙美の胸にもやもやとした不安がゆっくりと広がっていく。大きく広がる不安は水に垂らした墨汁の様に芙美の心を染めあげるとあっという間に包み込んでしまう。
ただの考え過ぎだと何度も打ち消しても未だに捕まっていない犯人がどこかに潜んでいる可能性だって捨てきれない。
「ちょっと見に行こうかな…」
草履に足を伸ばすと朱色の鼻緒を指に引っ掛ける。
足早に歩き出すが敷き詰められた玉砂利のせいで上手く走る事は出来ない。耳に届く踏み締める音が芙美の心を一層急かす。
「もう琴ってばどこにいるのよ…」
1つ、2つと小さなお社を回るうちに芙美の不安は更に増していく。池の反対側から木々の生い茂る小道へ入っていくと道は緩やかなカーブを描いている。
そのカーブを進むと分かれ道に差し掛かるので、左に曲がると木で出来た粗末な階段が現れる。いつ頃作られたたのか分からない年季の入った階段を注意深く登っていくと、そこには山の神様を祀ったお社が静寂のなか鎮座している。
陽を遮るように背の高い木々が辺りを覆いつくしているせいで周囲は薄暗さを増していく。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声に、芙美の足取りは無意識に重くなっていく。気を紛らわそうとわざと大きな足音を立てていると分かれ道に差し掛かった。芙美は迷う事なく左に身体を向けると足を止めた。
「琴っ!!!!」
芙美は探し続けた友人の姿をようやく見付ける事が出来た。
しかし、その姿は地面の上に横たわり微動だにしない友人の姿だった。




