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叶わぬ時の神頼み  作者: 小田川アキ
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孝美 その2

孝美の家でもある写真館は商店街から少し外れた場所に有り、その建物は孝美の祖父の代に建てられたというだけあって佇まいから古さを感じさせる。

写真館の2階部分は居住スペースとなっており、お世辞にも広いとはいえないリビングへ芙美と琴は通された。


「ジュースとお茶と紅茶があるけど何がいい?」

ソファに腰を下ろすなり孝美が2人へ問いかける。


「飲み物なんていいから、さっさと訳を話してよ」

逸る芙美の言葉に隣に座る琴も同調した様子で頷く


「もうせっかちなんだから。お母さんジュース3つお願い~あと何かおやつ的な物も~」

「はいはい」

娘の言葉に軽く返すと、孝美の母親は足早に台所へと向かった。


「わかったわよ。じゃあ話すわね…昨日、2人と別れたあとにカメラ仲間達との情報交換をしに待ち合わせ場所に向かったのよ。場所は駅前のカラオケボックスなんだけど、そこで各々が持ち寄った作品を見せ合ったり、歌を唄ったりしてかなり盛り上がって私も何曲か唄ったのよ。最初に歌ったのはLikaの新曲なんだけど、あの曲って結構難しいのよね~もうさ~高い音がなかなか出ないの!だから音を2つくらい下げたもん。それでその後に唄ったのが~…」

「孝美…ちょっと待って。何を唄ったとかはいいから、話しを先に進めて」

「えぇ~っ、これからが良いとこなのに」

「「孝美!!」」


芙美と琴の迫力に思わず孝美は首を竦める。


「はいはい、わかりましたよ。えぇっと確か8時くらいに解散ってなって私も家に帰ろうとしたんだけど、駅前の大通りは祭りの影響で人が多くて混んでたんだよね。だから空いてる裏道から行こうと思って、公園通りの脇道に入ったのよ…あそこの道って通った事があれば知ってると思うんだけど街灯が少なくて夜はちょっと怖いんだよね、だから早足で歩いてたんだけど…そしたら背後に人の気配みたいなのを感じてさ、それで…」

「孝美ちゃん、お茶菓子がどら焼きしかなかったんだけど良いかしら?それともお煎餅のが良かったかしら?」


話しがいよいよこれからと言う時に、孝美の母親がオレンジジュースと共にどら焼きと餞別の入った器を持って現れる。


「どら焼きで大丈夫~あっ、でも甘い物を食べるとしょっぱい物も食べたくなるから両方にする!2人も食べるでしょ?」

「じゃあ両方とも置いておくわね。芙美ちゃんと琴ちゃんも食べてね」

「「……はい。ありがとうございます」」


朗らかな笑顔を向けてくる孝美の母親に芙美も琴も衝いて出る言葉を飲み込むと、お礼の言葉を口にするのがやっとだった。


「それで…話しな続きは?」

孝美の母親がリビングを後にしたのを確認すると、芙美が口を開いて。


「あっ続きね!えっ…とどこまで話したっけ?」

孝美はオレンジジュースを口に含むと首を捻った


「"背後に人の気配した"ってところまで!」

「あぁそうだったね。後ろに人の気配がしたから振り返ったのよ、そしたらフードを被った黒ずくめの大男がいてさ、いきなり私を突き飛ばして来たのよ!その勢いで壁におでこをぶつけて切っちゃってさ…顔面血塗れになったんだから!!」


額に巻かれた包帯に指を伸ばすと孝美は怒りと恐怖を思い返して表情を歪める。


「もう痛いし怖いし、突然だったから声もでなくてさ…」

「怪我は大丈夫なの?」

「少し縫ったけど…病院で検査してもらったら脳には異常は無いって言われた」

「そう良かった…」

「うん…大きな怪我にならなくて良かったよ」

「いや全然よくないわよ!!!」


孝美は込み上げる怒りを抑えきれず、ソファに置かれていたクッションを乱暴に殴り付けた。


「た、孝美。落ち着いて…」

「そうよ。傷にさわるんだから止めなさい!」

「落ち着いてなんていられないのよ!私があのカメラを買うのにどれだけ苦労したと思ってるのよ…」

「カメラ…?」

「私が突き飛ばされて血だらけになって苦しんでる隙に、あの野郎は私のカメラを持って逃げやがったのよ!!」

「えっ!!あのカメラを盗まれたの?!」


その言葉に孝美はテーブルに顔を伏せると大声で泣き出した。その様子に芙美と琴は慌てて孝美の両隣へ座ると優しくその背を擦った。


「絶対…絶対に…犯人の奴を許さないんだから…」

「うん…」

涙声で呟く孝美に2人は静かに頷く。


「捕まえてカメラを取り戻したら、この手でギタギタにしてやるんだから…」

「……」

犯人への怒りがぶり返したのか孝美は物騒な台詞を口走り始める。


「だから2人とも協力してよね!!」

「えっ!!」

驚いて顔を覗き込むと孝美は2人の手を強く握る。


「私たち友達よね!!」

「うん…そうだけど」

「じゃあ頑張ろうね!」

「う、うん…?」


孝美の勢いに飲まれ思わず返事をしてしまったが、犯人を見つけ出すなんて到底無理な話しだと、この時2人は思っていた。
















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