孝美 その1
「孝美が襲われたってどういうこと!!」
琴の言葉にスマホを持つ芙美の手に汗が滲む
「さっき孝美のおばさんから電話があって…どうも昨日の夜に襲われたらしくて、その時に怪我をして今は入院してるって、うちのお母さんと話してた」
「昨日の夜に!それで怪我って、そんなに酷いの!?入院するほどの怪我なんてよっぽどでしょう」
芙美の脳裏にカメラ仲間に会うと話していた孝美の姿が思い起こされる。まさか、あの後そんな出来事が起きたなんて…芙美には、にわかに信じ難い事だった。
「どんな怪我なのか詳しくは分かんないんだけど…命には問題ないって言ってた。入院してる病院も聞いたから行ってみない?」
「うん、そうだね。すぐ支度する…」
そう言って電話を切ると芙美は直ぐさま身支度を済ませ神社へと向かった。
真っ白な建物に反して薄暗い廊下が長く真っ直ぐに続く。その長い廊下を2つの足音がけたたましく駆け抜けて行く。
「廊下は走らないで下さい!!」
すれ違った白衣の女性に叱責されると、2つの音は慌てたように息を潜めた。
病室の入口に取り付けられた名前を読み上げながら芙美と琴は足早に進んで行くと、よく知った名前が2人の目に飛び込んで来る。
「「あった!!!」」
叫んだ声と共に病室に飛び込むと2人は室内をぐるりと見回した。4つのベッドが置かれた病室には消毒薬の匂いが漂っている。注がれる視線に首を捻ると窓側のベッドに腰を下ろした少女が驚いた表情で2人の姿を見詰めていた。
「「孝美!!!!」」
「芙美、琴!!?」
驚いた孝美の顔には痛々しく包帯が巻かれていた。
「ど、どうしたの2人とも…」
「どうしたじゃないわよ!孝美が襲われて怪我をしたって聞いたから飛んで来たのよ」
「ほんとに凄く凄く心配したんだからね!」
「あ、ありがとう2人とも…そんなに、私のこと心配してくれたなんて…」
孝美は嬉しさのあまり涙ぐむ
「でも…せっかく来てくれたんだけど、私…もう退院するから」
「「えっ?!」」
よく見れば、孝美の額には包帯が巻かれてはいるが、その服装はティーシャツにハーフパンツとスニーカーを履いており、傍らにはボストンバッグが置かれていた。
「…どういうこと?」
「詳しい事はうちで話すから2人とも来てよ。ママいいでしょ?」
首を捻る2人を余所に、孝美はちょうど入口から入って来た女性に向かって声を掛ける。
「そうね、せっかく来てくれたんだし2人共うちに寄って行ってちょうだい」
「「はい…」」
賑やかな孝美の母親に促され2人は用意された孝美の家の車に乗り込むと、訳も分からないまま孝美の家でもある写真館へと向かった。




