芙美と大倭 その7
「ちょっとごめんなさい。そこ通してもらえる?」
周囲に飛び交う女子達の甲高い声を一掃するように、芙美の力強い声が人混みを通り抜ける。
背後から感じる放たれる謎の迫力に誰ともなく小さな道が形作られていく。
「あんたねぇ、いつまでも法被姿でこんな事してないで、さっさと着替えて手伝いに行きなさいよ」
「げっ!!でた!!!」
芙美の顔を見るにつけ大倭は表情を歪める。
それまで楽しげな声を上げていて女子達は一様に顔を強張らせ芙美と琴に視線を向けた。
「俺はね~今この子達と写真を撮るのに忙しいの。これが終わったら手伝いに行ってあげるからさ~邪魔しないでくれる?」
「写真なんてあとにしなさいよ!手伝いのが先でしょう!それに!!そもそも邪魔なのは、鳥居の前に集まって騒いでるあんた達の方でしょうが。」
「あのね、俺はこうやって観光客の方と写真を撮る事で町のイメージアップの手伝いをしているの。わかったら、もうあっちへ行ってくれるかな~」
そう言うと大倭は目の前の虫でも追い払うかのように顔の前で手を振った。その不遜な態度に芙美の怒りのメーターは急激に上昇していき、握り締められた拳は小刻みに震えていた。
「あんまり調子に乗ってんじゃないわよ!!」
「うわっ!怒った、怖~い。暴力反対~」
大倭が大袈裟に怯えた振りをして身を屈めると、周囲の女子達から悲鳴にも似た声が上がる。その声と視線には芙美を責めるような非難の色が滲んでいた。
「な、なに…よ」
見知らぬ人達からの反応に思わず身動ぐ事が出来ない。そのうち1人の女子が大倭に声を掛ける。
「ねぇ大倭く~ん。今度は池の前で写真を撮らない?何かここだと怖い人もいるし~」
気の強そうな少女は唇の端を吊り上げ、芙美を一瞥すると大倭の腕に自分の腕を絡ませた。
「あぁ~ずるい~!私も~」
女子達は次から次へと声を上げると、大倭の回りを取り囲んだ。
「あっ、あぁ~そうだな~。それじゃあ他の場所にでも行こうかな~」
「「やった~行こう行こう~」」
その声と共に、大倭を中心とした女子の集団は鳥居の奥へと進んで行った。
「ちょっとぉ!!なんで私が悪者なのよ!!」
我に返った芙美は、去って行く集団に向けて叫び声を上げるが立ち止まる者は1人もいない。
「てか、私はあのバカの姉なのに何であんな当て付けの牽制みたいな事されなきゃいけないのよ!!!」
「芙美、落ち着いて。顔が怖いよ~ほら、さっきまでの大和撫子な芙美ちゃんが台無しよ~笑って笑って」
宥めすかすように声を掛けるが、怒りに震える芙美に琴の声は届くわけも無かった。
「これが笑ってられるか!!もう頭にきた!琴、お詣りに行くわよ!」
「お、お詣り?なんでまた急に…」
「あんな奴、罰でも当たって痛い目に合えば良いのよ!!罰が当たるようにこれから神頼みをするのよ!!!」
「えっ!?えぇ~…っ…!!」
「フッフフフ…」
血走った瞳に不適な笑みを湛え、実の弟相手に恐ろしい言葉を口にする親友の姿に、琴は心の底から神様へ救いを求めるのだった。




