大倭 その3
女子用の控え室では着替えを終えた子供達がひと際賑やかにはしゃいでいる横で親達は世間話しに花を咲かせている。芙美と琴も早々に着替えを終えると壁に掛けられた時計を見上げる。
「そろそろお母さんの手伝いに行かなくっちゃ。大倭にも手伝わせたいけど、あのバカは私の連絡は無視するからな」
スマホの画面を眺めながら芙美は腹立たしげに吐き捨てる
「ねぇ誰か大倭のこと見た人いますか?」
「え~大倭くん?誰か見た?」
「私は見てないけど~」
談笑しているおば様軍団に声を掛けるが心当たりが無いと首を傾げる
「わたしみたよ!やまとお兄ちゃんね~お外で女の人いっぱいといたよ~」
「お写真とってたよね~」
「とってた!わたしもとる~って言ったら"あとでね"って言われたの」
走り回っていた子供達が足を止めると口々に話し始める
「そう。お外で女の人達とお写真を撮ってたのね」
「「うん!!」」
「教えてくれてありがとう」
芙美からのお礼の言葉に子供達は一層賑やかにはしゃぎ回るが、親達はその笑顔に不穏な空気を察知したのか一斉に目を伏せた。
境内に出て辺りを探すと鳥居の横に飾られた提灯の前に若い女性が集まって黄色い声を上げていた。
芙美は即座に足を速めるとその中心には法被姿で次々に華麗なポーズを決める弟の姿があった。
「なにあれ…」
「頼まれたのかな…?」
「その割には随分とモデル気取りですけど…」
「…ですね」
冷ややかに見詰める芙美と琴とは対照的に大倭と周囲の女子達の興奮は更に上がっていく
「大倭くん次は私と写真撮って~」
「ずるい~私も撮りたい!」
「はいはい、順番に撮るから大丈夫だよ!焦らないで」
「「きゃーっ!!かわいい~!!!」」
大倭が微笑むと女子達の歓声は呼応するように甲高く響いていく
「ねぇ…怖いんだけど…誰あれ?」
「や、大倭ってあんなキャラだったけ?」
「「……。」」
大倭と女子達が盛り上がれば盛り上がるほど、見慣れぬ異様さに芙美と琴は鼻白むしか無かった。




