夏祭り その8
「ねぇねえ、さっき豊田のおばちゃんに大倭の写真を売るって話しをしてたけど~孝美ってば大倭の写真でそんな事してたの?」
「えっ…い、いや…そんな事してないよ」
「えっ?さっき言ってたじゃん。特別価格で売ってあげるって、それって特別じゃない価格もあるって事でしょ?」
するどい。意外と琴ってそうゆう所に気が付くんだよな…と芙美は妙な感心をする。
「えっ…わ、私そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ。ダメなんだ~大倭に言っちゃおう~」
「いやいや、それは誤解だから!本当に本当に誤解だから!!今日たまたま撮った写真をあげるよ~って話しをしただけだから」
「売るって言ってた」
「いやいや~それは冗談、うん冗談だから!」
同じ言葉を繰り返せば繰り返すほど嘘くさく聞こえるのはどうしてなのか。あれでは嘘だとすぐばれてしまうのに、嘘のヘタな孝美な姿に芙美は半ば呆れながら聞いていた。
「芙美は知ってたの?」
「えっ!し、知らないよ!!」
急に矛先が自分に向けられ、芙美は思わず声が上擦る
「ほんとにぃ~?」
「当たり前でしょう!あんなバカな弟の事なんて全く興味ないし、むしろ関わりたくなんて無いんだから」
「また、そんなこと言う~お祭りの時くらいは少し仲良くしたら?」
「無理。アイツが態度を改めない限り、仲良くなんて出来ません」
「もう…どうしてそうなのかな」
しめた!芙美のお陰で話しが逸れた。今こそ逃げるチャンスだ、孝美は心の中でガッツポーズを決める。
「あぁ~っ!いっけな~い、これからカメラ仲間との情報交換を兼ねたミーティングがあるんだった!もう行かなくっちゃ。お祭りはまた明日ゆっくりって事で、あとでメールするから~じゃあね~」
そう言うと孝美は逃げるように足早に去って行った。
どうやら孝美は嘘はヘタだが逃げ足は速かったようだ。
「逃げた…」
「孝美のカメラ仲間か…きっとロクでもない情報を交換してるんだろうな」
芙美のその言葉に琴は黙って頷くばかりだった。
「そろそろ着替えようか…」
「そうだね…」
気が付けば陽は落ち始め提灯や街灯に灯りがともされている。いつまでも装束姿のままでは目立つ上に動き難い、2人は生温い夕風に吹かれながら参集殿へと向かった。




