夏祭り その4
威勢の良い掛け声を受け、御輿のまわりにはその勇ましい姿を一目見ようと多くの人達が列を成して長い人垣を作っていた。見物客達はその迫力のある姿を記念に収めようと、カメラやスマホを片手に歓声を上げている。
孝美も例に漏れず、大きなカメラを構え興奮した様子でシャッターを切り続けているが、その被写体は町内でも人気の男性達に限られていた。
その中には法被に半股引、足袋を履いた大倭の姿も当然ながら選り抜かれており、一枚また一枚と孝美のカメラに収められていった。
「やっぱりさ~法被に半股引姿だと、みんな5割増しで格好よく見えるよね!」
「わかる~!!何か萌えるよね!大倭くんなんて、めっちゃ女子の視線を浴びてるよ!」
「うわっ、本当だ~凄い!」
「えぇ…」
興奮気味の琴と孝美とは裏腹に、芙美は大倭が注目を浴びている事に1人困惑をする。確かに目の先にいる勇猛な面持ちで声を張り上げお神輿を担いでいる大倭の姿は格好良いのかもしれない、しかし実際は生意気で外面ばっかり良くて、そのくせ自分の事はまともに出来ず人を頼ってばかりの情けない弟でしかない。大倭の姿に黄色い歓声をあげている女子達に実態というものを懇切丁寧に教えたいくらいだった。
お神輿が3人の前を通り過ぎて行くと、観衆も後を追あように一斉に移動して行く。賑やかだった境内は段々と静寂を取り戻していく
「じゃあ私もお神輿に付いて行くから、また後でね!」
そう言い残すと孝美は、お神輿が進む経路を先回りすべく駆け出した
「いいなぁ~私もお神輿を見に行きたいな」
「琴は別にする事があるでしょう」
芙美の言葉に琴は頬を膨らませる。
神社の娘である琴がお神輿の後を付いて行く事は無い。お神輿が神社へ戻って来た時に備えて、これからやらなければならない準備が山程あるからだ。
「さぁ行くよ」
「は~~い」
渋々返事をすると、2人は連れ立って歩きだした。




