夏祭り その3
「ほら~」
「こ、これはっ!!」
「どう?よく撮れてるでしょう」
それは昨日の朝、芙美が大倭を起こす次いでに撮影した寝姿の写真だった。手渡された芙美のスマホ握り締め、孝美は怪しげな奇声を漏らしながら小さな画面に一瞬で釘付けになった。
「ま、まさか…へそチラまで!!!」
沸き上がる興奮を抑えきれないのか孝美の鼻息は荒々しさを増していく。気付けば芙美のスマホの画面は、孝美の鼻息と手汗で薄らと湿っていた。
「はい、ここまで~」
「あ~ん、ケチ~ッ!」
孝美の手からスマホを取り上げると、芙美はバッグから取り出した除菌用のウェットティッシュで丹念に拭う。
「失礼ね!人をバイ菌みたいに」
「スマホを握り締めていた時の目は、バイ菌扱いどころじゃなく完全に異常者の目だったけどね…」
「そんなよ仕方ないよ~そんな画像を見せられたら誰だってなるもん」
「それだけ気に入ったって事は問題は無いって事ね」
「無い無い全く無い!!」
孝美は鼻息も荒く力を込める。
「じゃあ1枚500円で私が7の孝美が3ね」
「えっ、5の5じゃないの!!」
「なんでよ。どう考えても私の労力のが上でしょう?不満なら別に良いのよ~他に考えるから」
淡々と言い捨てると、芙美はスマホをポケットに仕舞い込んだ
「待って待って!7、3で良いから!!譲って!!」
「そう?悪いわね~。それとね、私の写真を撮るのは構わないんだけど、それを私に無断で展示をしたり販売をしたらダメだからね。その約束が守れないなら売ってあげられないかなぁ~」
孝美の頬を軽く摘まむと芙美は満面の笑顔を湛えながら続ける
「だ、大丈夫だよ。無断でそんな事しないから…」
孝美の声が若干上擦る
「もしもだけど~孝美が約束を破ったりしたら、絶対に許してあげないからね♪大丈夫よね?」
笑顔とは裏腹に、恐ろしいものを感じ取ったのか孝美は怯えたように何度も頷いた。
「それじゃあ交渉成立ね!あとでデータを送るね」
「う、うん。待ってる、ね…」
「ねぇねぇ、さっきから2人で何の話しをしてんの?芙美が何かの写真を撮ったの?」
先程からやり取りを見ていた琴が2人の様子に首を捻る
「あぁ~…ちょっとね~…」
思わず孝美は言葉を濁す。なぜなら芙美から余計な事を言うなという無言の圧力を感じたからだ。
口の軽い琴に知られれば、いずれは大倭の耳に入ってしまうだろう。そうなればまた面倒な事になるのは目に見えていた。
「それ私にも見せてよ」
「いや、それは…」
「何で2人だけで見て私はダメなのよ?!もしかして仲間外れにしてるの!!」
孝美は居た堪れずチラリと芙美を見やるが、知らぬとばかりに反対側へ顔を反らしている。
「こ、これは仲間外れとかじゃないから、ちょっとしたアレなだけだから」
「アレ?アレってなによ?」
「あ、アレはアレよ…」
琴の追及にしどろもどろに尻窄みになる孝美の姿に、芙美は笑いを堪えきれず肩を震わせる。
「そろそろお神輿が出発する時間になるよ!ほら琴も孝美も行くよ~」
「あぁ~本当だ~急がなきゃ~!」
駆け出した芙美に続くように、孝美は白々しい物言いで後を追い掛ける。
「ちょっと~!誤魔化さないでよ~見せなさいよ!」
大声は張り上げてビーチサンダルで追い掛けて行く琴の姿は、300年以上続く由緒正しい神社の1人娘という清廉さなど微塵も無かった。




