夏祭り その2
神輿が出発する時刻が迫って来ると、それに合わせて見物客の数も多くなり、いつの間に境内は沢山の人が溢れかえっている。擦れ違う人々の中にはは祭りの高揚感からか、朝から酒が入っている者も少なくない。
芙美はそんな大人達に白けた視線を容赦なく向けるが、あしらいに慣れた琴は嫌な顔一つせずに笑顔で受け流して行った。
人垣を抜け何とか社務所の入口まで辿り着くと、聞き覚えのある声が耳に届く
「やっと来た~2人とも遅かったじゃん」
芙美と琴の姿を見つけ孝美が小走りに駆け寄って来るが、小柄な孝美には不似合いな程の大きなレンズの付いたカメラが首から下げられていた。
「凄い大きなカメラだけど、どうしたの?!」
「いつもの小さいデジカメとは随分違うね」
「ふふふっ、気が付いてくれたのね。実はこの日の為に家の手伝い諸々で貯めたお金で買ったんだ~」
「すご~い高そう!ちょっと私にも触らせて」
「それは無理!」
興味津々に琴が伸ばした手を孝美は軽く振り払うと、カメラを大事そうに腕に抱え込んだ
「このカメラは私以外にはぜ~ったいに触らせたりしないんだから!たとえ琴でもそれは出来ない相談なの」
「ええぇ~なにそれ~」
琴は不満そうに頬を膨らませる
「まぁまぁ、その代わりに今日は専属カメラマンとして、いっぱい写真を撮ってあげるからさ」
そう言うと孝美はファインダーを覗き込んだ。
レンズの中に鮮明に写し出された、不満顔の琴と呆れ顔の芙美の姿に孝美は夢中になって人差し指に力を込める
「もう変な写真撮らないでよ~!」
「大丈夫、なかなか良く撮れてるわよ~出来上がったら、うちの写真館に飾ってあげるからさ」
「ちょっと止めてよ!もし、そんな事したら絶交するからね!!」
「えぇ~いいじゃん、飾ってもらおうよ!」
喜ぶ琴を芙美はジロリと睨み付ける。
孝美の家は今では少なくなった写真館を営んでいるのだが、入口横には硝子で区切られたスペースがあり写真館で撮影された写真は随時そこへ展示されてしまうのが、この写真館での慣習だった。
子供の頃より人前に立つ事も目立つ事も嫌いな芙美にとっては迷惑にほかならないのだが、写真館の主…つまり孝美の父親にいくら止めて欲しいと訴えても聞き入れては貰えず、かと言って他の写真館に変えて貰う事も叶わず、多くの我慢を強いられて来た思い出が芙美の脳裏に浮かんでは消えていった。
「もしそんな事をしたら、この画像は絶対にあげないからね」
「画像??」
首を捻る孝美と琴を横目に、芙美はポケットからスマホを取り出すと見せ付けるように軽く揺らした。




