大倭 その2
無意識に震える身体を引き摺り、何とか風呂場へと辿り着く。身体を覆い隠すように巻き付けていたタオルケットから身を出すと、刺すような冷たさが一層強く感じられる。大倭はやっとの思いで着込んでいた服を脱ぎ捨てると、洗濯かごには小さな山が出来上がった。
脱衣場内は熱めに設定したシャワーのせいで、立ち込める湯気はまるで濃霧のように視界を遮る。
肌の上を空気が撫でるだけで、これまでに感じた事の無い痛みに襲われ大倭はカン高い悲鳴を上げた。
救いを求めるように熱いシャワーの中に逃げ込みホッと息を吐くが、次の瞬間その身体に新たな違和感を覚える
「えっ!あっ熱ぃ!つ、冷てぇ!!え、えっなに?!」
それは、大倭の身体にはハッカ油が散布されていた箇所とされていない箇所がある為に感じる温度が一定では無かったのだ。ハッカ油の塗られた箇所は熱いお湯のお陰で何とか落ち着きを見せるが、その他の箇所は茹で上がっていくタコのように色付いていった
「あ、あの野郎マジムカつくぅぅっ!!!」
歯を喰いしばりシャワーの熱さに耐えるが、思わずその熱から避けると凍てつく空気に悲鳴が溢れる。大倭の脳は熱いのか寒いのか混乱し始め処理しきれない状態だ。
やっとの事で身体を洗い終えるが、その身に感じる寒さが和らいだようには全く思えず大倭は顔を歪める
「全然変わらねぇじゃんかよ!!」
風呂場で1人悶え叫ぶ大倭の声は廊下を通り抜けて、ダイニングテーブルで優雅に食後のお茶を啜る芙美の耳にも届いていた。
「濃いめに作ったからね~1度洗ったくらいじゃ落ちないでしょうね~」
その声に芙美は人知れず笑いを噛み殺す
「えっ、何か言った?」
朝の準備で忙しそうに動き回る景子が足を止めて顔だけこちらに向けている
「そろそろ時間だから学校に行くねって言ったの」
「あらやだもうそんな時間。大倭は?」
「さぁ?まだお風呂にでも入ってるんじゃない~それじゃあ行ってきま~す」
「えっ!あの子まだ入ってるの?!やだもう遅刻しちゃうじゃないの!!」
芙美はゆっくりと席を立つと、テーブルに置かれた2つのお弁当のうち花柄の包みの物を手に取ると玄関へと向かった。廊下の奥から聞こえてくる悶え苦しむ大倭の声を背に、芙美は静かにドアを閉めた。




