表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

目が覚めて

目が覚めた。


ここ数日で一番目覚めが良い。今までのうっ憤を全て忘れてしまったように気分が良く、あれほどまでに気怠かった現実に待ち遠しさすら感じている。

早く目を開けて景色を眺め、肺に空気をいっぱいに吸い込み、全身を動かしてこの解放された気分を何かに表したい。


覚めた思考の中、目を瞑ったままニヤニヤをしている。はたから見ると気持ち悪い光景だろうと確信するも、今の俺を止める者は何者も居ない。


さぁ、ようこそ世界!


目を開けるとそこには寝る前と変わらず、木々とその間を縫って進む陽の光で構成されていた。

あまりの気分の良さに、口を半開きに空気をいっぱいに吸い込み、吐いた。そしてゆっくりと体を起こそうしてそれを見た。


体の上をぶにょぶにょした物体が這ったいたのである。

焦った。何かわからないこの物体への対処方が分からずこわばった身体に無理やり喝を入れ、それが這うおなかの辺りを思いっきりひねり、捻ったその体制のまま1メートル程這って逃げた。


狙った通り、身体をひねった拍子に謎の物体は身体から転げ落ち、ベッド代わりにしていた苔の上にもにょりと落ちた。


「ぷぎ」


落ちた拍子に物体から音が聞こえた。初めて聞く音で何か訴えかけるようなニュアンスを感じたが、人間が緊急時に生じるバイアスのようなものだと頭を揺らし考えを振り払った。


俺は今謎の物体と対峙しているのだと考える間に謎の物体はその場でもぞもぞと動き出した。毛穴からじっとりと冷や汗が漏れ出るのを感じている。何かわからないものが腹に乗っていたのもそうだが、その何かわからないモノがまた動き出そうとしている。

その物体の表面は少し白みがかっているがその奥側にはっきりと主張する赤色が血管のように脈動しているのが見て取れる。全体的には饅頭をひねったような盛り上がった部分とその間にある落ち窪んだ部分が連続していた。腹の上に居た時の感覚からは全体的に脂肪のようなぶよぶよとしているように感じた。一瞬のことだったのではっきりしないが、人肌よりも熱かったように思う。


そんな物体を目の前に身構えて、どんな行動でもとれるよう浅く呼吸を整える。その間にも物体はもにょりもにょりと蠢動し、ころりと90度程転がると何かを探しているようその場に佇んだ。

喉の奥がひり付くのを感じる。流石に油断しすぎたかと思う反面、アルマジロか何かだろうと思考が正常化しようとしているのを感じる。


だが、断じてアルマジロやモグラなんかの動物ではないだろうという確信があった。あの物体には動物にはない気持ち悪さを感じているのだ。


その刹那、佇んでいた物体の四方から何かが生えたように感じた。瞬間、俺はその光景に背を向けて全力で走り出した。

背後から聞こえる何かが這うような音を置き去りにして全力でその場を離れた。振り返りたい心を押さえつけて4歩、5歩とトップスピードに乗りそうな頃、背後からは更に赤子の泣き声のような叫び声が聞こえ、

慌てて足に力を入れてスピードを上げようとした。


そう、赤子の泣き声のような、赤子の・・・

10秒程走った所で、俺は立ち止まり、数秒かけて後ろを振り向いた。


先程立っていた場所の辺りで、必死に這うような姿勢で手足をばたばたさせ泣いているぷっくりとした赤ん坊が居た。


混乱した。謎のもにょもにょした物体は実は赤子だったらしい事もそうだが、俺が立ち止まったのを察したのか、その赤子が泣くのをやめて俺の方に下手くそなハイハイで少しずつ近づいてきているのだ。

そのため混乱から立ち直る事も出来ないまま、近づいてくる赤子のもとに歩み寄り、おっかなびっくり赤子を抱き上げた。


生まれてこの方、赤ん坊なんて抱いた事も、近くでじっくり見た事もない。正しい抱き方もわからないまま、赤子の脇の下に手を入れ自分の顔の高さまで赤子を持ち上げた。


ジッと俺の目を見てくる以外は至って普通の赤ん坊だ。苔がしっかりと茂っていたからか特にそれらしい汚れも、怪我も無さそうだけど。


この赤ん坊は俺をジッと見据えていたがら唐突に左手を俺に伸ばしたかと思うと、親指をの先っぽを自分でしゃぶり始め、そのまま辺りをキョロキョロと見回すように目を動かしていた。


「わあーうー?」


関節にあたる部分は左右の肉に埋もれている。脇の下もプニプニした感触で、いつの間にか持ち上げる為に差し込んだ手を軽くワキワキと動かし触り心地を楽しんでいたらしく、どこかむず痒そうな声で我に帰った。


「お前、なんなんだ?」


聞いてみるがやはり無駄らしく、クリクリと透き通る瞳が動くだけで答えは返って来ない。


いつの間にか指をしゃぶるのをやめていたらしいが。長いことしゃぶった手を動かすので、支える俺の手首の辺りに当たりそこもベトベトになっていた。

プニプニを楽しみましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ