能力初登場?(しない)
コンビニ弁当の空容器を脇に置きつつ、満たされた感覚に息を吐いた。
「ふぅ….」
吐いた息と一緒に体の中の熱も空気中に溶けていったようだ。身体は暖かいが、思考の熱は冷めてきた。
(さてと、ここが何処かを考えるのはやめよう。多分今答えは無い…これからどうするか、何ができるか、そこからだな…)
「さーて、どうするかねー」
周りに危険が無かったという事があるからか、もしくは油断していたからだろうか、思考の一区切りに声を出すと、コブから腰を下ろし苔の上にゴロリと仰向けに寝転がった。
存外、自分の部屋にある煎餅布団よりも良い寝心地と、頬を撫でる柔らかな風の感触が眠気を誘う。
チラチラと光が枝の間を抜けてくる光景を眺めつつ、やはり、ここは人の手が入った森なのだろうという確信を持って静かに寝入った。
…………叔父さん!婆ちゃん!美恵子さん!
走馬灯のように思い出すのは幼い時から信頼をする人たちだった。
婆ちゃんは俺の心の拠り所であり、小さな頃は万能の存在に思えていた。
叔父さんは仕事で忙しい両親に代わって色々な事を教えてくれた。初めての海に行ったのも山に入ったのも、幼い頃に訪れた花火大会は全て叔父さんと一緒だった。
叔父さんは俺の18歳年上で、俺の憧れだった。今思うと彼女と一緒の花火大会に親戚の子供を連れて行く事になるのは申し訳なかったとは思うが、海で沖に流された際の救助の待ち方や、山でトラブルがあった際の対処法等サバイバルな事は全て実施する事で教えてくれた叔父さん。
…今改めて考えると、とんでもない気もするし、両親が出来るだけ遠ざけようとするもの理解出来なくもない。
だが、当時婆ちゃんの家になぜか婆ちゃんと2人で住んでいた叔父さんと俺が会わない筈が無く、俺の感受性は叔父さんに育てられたと言っても過言ではなさそうだ。
そして、美恵子さん。
俺が小学校低学年あたりで、叔父さんの恋人だった人で、俺の初恋の人。
その当時叔父さんは20代中盤で、18歳の美恵子さんと付き合っていた。婆ちゃんの家にほど近い所に母親と一緒に住んでいると言われた記憶がある。
当然、婆ちゃんの家とも距離は近かったため、俺と婆ちゃんが居る家に遊びに来る事も多く、婆ちゃんも彼女の事を良くかわいがったし、俺も実の姉のように彼女に懐き、彼女も俺を実の弟のように可愛がってくれた。
ちなみに、その当時叔父が付き合う女は彼女以外ロクでも無い女ばかりだった。
それまでの叔父の彼女は俺を連れる叔父を見ると露骨に嫌な顔をして俺を居ないものとして扱うか、もしくは叔父の前では猫をかぶり、何かしらで叔父が離れると怒涛のように俺に文句を垂れるそのどちらかだったのだ。
そんな中優しく、思いやりを持って接してくれる彼女に初めての恋心を奪われたのは想像に難くないだろう。その時はまぁ、恋が何かも分からず、照れるような、むずかゆいような気持ちをいっぱいに彼女と接していたため、彼女も俺自身が気付いていない俺の恋心は察してはいたと思う。
が、やはり彼女の恋人は叔父で、俺は近所の弟のような子供であったのだろう。
たまたま予定外に婆ちゃんの家へ行った際にそれを思い知り、俺の初恋は砕け散った。
閑話休題
さて、そんな彼女であるが、俺が小学校終盤に差し掛かる頃にある日突然来なくなり、それ以来あまり会う事もなく時は過ぎていった。なぜ来なくなったかは分からず終いだが、あの時1年程続いた叔父の不機嫌期と婆ちゃんの遺品整理の時に婆ちゃんの大切なもの入れから出てきた彼女名義で叔父宛に綴られた何も書き込まれていない結婚式への招待状を見て大体察したといった所だ。
うーん、俺は死ぬのだろうか?これは走馬灯か?なんだ、妙な気分だなぁ。
見たくも無い、聞きたくもない、話したくも無い、まだそんな事がなかった時の思い出ばかり思い出す。
……
「うわ!」
またしても飛び起きる。
全身にびっしりと汗をかいている、シャツが体に張り付いて煩わしい。
未だ動悸を起こす胸を抑えてつつ、飛び起きる時に手が触れた固いものに目線を動かした。
あの球体だ。いや、もう球体と読んで良いのかわからない。
元々はハンドボール程度の球体が朝にはラグビーボールのように変形していて、今は一抱えもある大きさに成長している。表面は昼のキツい日差しをしっかりと跳ね返す光沢を纏った木目模様だ。
(朝も良く確認はしなかったが、木、なのだろうか?)
確信は無いが、直感的に朝の球体と同じだと感じる。
気味は悪いが何故か遠くに捨てるような心待ちにはなれない。
飛び起きた体制から胡座をかくと、前傾姿勢になり頭を支えるように掌を顎に添え、繋がる肘を膝上に固定すると謎の球体に向き合った。
ジッと見ていると、表面が鼓動するように波打っているのだろうか、こころなしかユラユラとしているように見える。
割れ目のようなものは見受けられない。少し突いてみると硬質な木の感触が返ってきた。ただ、中は空洞なのだろうか、妙に軽く、少し突いただけなのに向こう側に転がった。
突いたり、叩いたり、ノックしたり持ち上げたりと一通りの感触を確かめたが、出てくる答えは恐らく空洞な木のボールという感想と、見た目では気付かなかったが表面が緩やかなコブでデコボコしているという事だった。
見た雰囲気と存在が少々気持ち悪いことを除けば、至ってタダの木のボールだった。
それからはツヤツヤとしながらも所々にあるタンコブのようコブが手に引っかかる妙な感触を楽しみつつ胡座をかく足の間に置き、撫でながら現状に考えを巡らした。
(現状分かっている事実から並べて考えよう)
1、恐らくここは人の手が入り管理された場所であること。
2、例の小山があって場所に倒れていた木は何かが乱暴に折ったような後である事、
3、苔が茂っていたため気付かなかったが。元小山があった場所には超巨大な何かの足跡があったこと。
4、食えるものが成りそうな木は無さそうという事。
5、腹が減ってきたこと。
6、木のボール表面のコブが無くなってきて、滑らかになってきたこと。
7、腹が減ったこと。
「腹が…減ったな…」
先程から木のボールを腹に押し付けながら撫でることで、誤魔化してはいたが、そろそろ限界である。
時刻はもうそろそろ夕方といった所だろうか、まだ陽の光はあるものの、森の夜は突然暗くなる。陽の差し方から見ても恐らく明るさも限界だろうと考えた。
「だめだ、腹が減りすぎてどうしようもねぇ…今日はもう寝ようかね。お前も、そう思うだろ?」
誰に聞いてもらえる訳ではないことは分かっているが、空きっ腹にすっぽりと外側から重なる木のボールに向けてひとりゴチた。
あれからずっと撫で続けていたからだろうか、表面はすっかりとコブも無くなりツルツルになっていた。
苔の上にゴロリと横向き寝ると、空腹を誤魔化すよう木のボールを強く抱いて、背中を丸め目を瞑る。嫌な想像があたまを過るが、そのたびに大きく深呼吸を行い、無理矢理眠りに着いた。
やりたい事を片っ端から詰め込み過ぎてます。
後悔はしていないです。
また、収集が付かなくなった時には謝りたいと思っています。
ごめんなさい。
次ページ位から会話する、かもしれません。