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「ナンだよ…これ……」


初めて、しっかりと顔を上げて見た光景は鬱蒼とした森の中だった。


誘拐だなんだとグルグルと巡っていた思考も、目の前に広がるも光景に仕事を放棄しかけている。


「うあ…」


情けない声だけが脳内で木霊する。

月曜日の朝、もう一度微睡に身を任せるように目が閉じそうになる。


(いや、違う、ダメだ!

目を瞑ってもしょうがない。

目を瞑っても何も解決しない。

目の前を見ろ!周りを見ろ!自分を感じろ!)


遠い昔の記憶から叔父さんに言われた言葉を思い出す。


ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。

それを数度繰り返し、慌てる心臓を落ち着ける。

頭を振りモヤモヤした感情を鎮めていった。


最後に、誰に対してでもないが一度頷き、もう一度周りの光景を確認した。


「やっぱり、森だよな…」


落ち着いてくると、周りの状況も少しずつのみこめてきた。

地面に置いたままであった手からは少し湿ったような土と、少々の事ではへこたれまいと押し返すような苔と草が感じられた。


周りを見ると暗いが、背の高い木々の間からは光が少しずつ地面に反射しており、暗闇という感じではない。


後ろを振り返ると、大きな倒木とその手前に恐らく何かの糞、信じたくはないが自分が顔を突っ込んでいただろうものが自分の背丈並の小山を作っていた。


土と草と木と糞と少々の木漏れ日と自分1人、それ以外は何も無かった。


周りの状況を確認し、ゆっくりと立ち上がる。

チラリと確認したが、服も手も汚れていた。

ため息をつきつつ、腰を掛けれそうな場所を探す。

無意識の内にアノ小山から少しずつ離れながら、木の根っこが丁度良くコブになっている

部分を見つけたので腰掛けた。


「なんなんだよ」


ひとりでに口から出た言葉に返してくれる声は無い。

何度目か分からないため息も地面に吸われていった。


コブの主である大木に背を預け、目の前の光景を眺めていたが、おおよそ人生で初めての経験は存外に体力を消耗していたようで、いつの間にか寝入っていた。


フワフワと身体が宙を舞う感覚がした。

目を開けずとも周りを知覚できたことで、これは夢だと感覚で理解した。


フワフワと何処かに飛んで行きそうな気もするが、そこにはとても大切なものがあり、離れちゃいけない気がした。


どれくらいそこに居たか分からないが、ゆっくりと暖かいものが覆ってくれるのを感じた。


心地いいなぁ…


心地いいながらも、どこか遠くで警報のような音が聞こえる。ギチギチという音も聞こえてきた。


ここで目が覚めた。

目を閉じつつも急速に覚醒する意識の中で自分の状況を再確認した。


(しまった…ここは森だ、何が居るか分かったもんじゃ無い。ヤバイヤバイヤバイ)


焦った。心臓はバクバクと音を立てて、身体中を冷や汗が流れた。


空気があり水があればそこに生態系があるとは叔父さんから聞いた言葉だった。

心臓の音がうるさい中、叔父さんに教わったように、ゆっくりと薄目を開け周囲を確認し、何かの足音ないしは呼吸音がないかを聞き分けた。


焦る心とは裏腹に、何も無かった。


特別体に痛む所も無い、ゆっくりと目を開け、再度周囲の確認をした。


(…何も、無い。……良かった)


タダの胸騒ぎだった事に安堵し、背を預けていた大木から静かに背中を離した。

ポキポキという音と若干凝り固まった筋肉に痛みがあるが、特別問題は無さそうだ。


眠ってしまうという緊張感の無さに我ながら呆れてしまうが、なってしまったものは仕方がない。


完全に覚醒した思考の元、これからの算段をつけるため周りを見渡す。


昼間よりは暗いが、月明かりが木々の間からしっかりと入ってきているためある程度は目が効いた。


動物らしきものの気配は全く無かった。

風もなく、木々も黙って直立するだけで辺り一帯は静寂に支配されていた。

改めて自分の境遇にため息をつきつつ、ふと足元を見た。


「ん?」


奇妙なボールが根のコブの横に落ちていた。


(昼間にこんなものあったかな?)


全て照らす程この場は明るくはないが、全体のシルエットと、少ない光を反射しようとする表面であることは分かった。


昼間は無かったであろうことを疑問に思いながらも、ツツいてみようという好奇心が勝り、ゆっくりとコブに片手をつきつつコブに向き合う形となり、膝を曲げ球体に手を伸ばした。


もう少しで手が届くところで、体の自由が効かなくなった。


前兆は無かった。

最初に意識出来たのは、膝が何故か地面に付いていたこと。

湿った感覚を膝にうけ、球体に向けていた視線を膝に向けた事で、膝が地面に付いている事に気付いた。

立ち上がろうと力を入れるも立ち上がれなかった。

混乱するまま、足がダメなら腕にと視線を向けようとするが、膝を見るために顎を引いた体制のまま、頭は持ち上がらなかった。

唯一動いた眼球がコブから滑り落ちる手と同時に近づく地面を知覚して、遠くガサガサとビニール袋が潰れるような音が聞こえ、あぁ、俺の週末コンビニセット…そう思考したそこで記憶は途切れた。

好き勝手に書いてます。。

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