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即効シャウト!

仕事中、忙しい程その脇で原稿が捗るんですが、先日、忙しい最中にパチパチと書き込んでいたメモ帳を誤って消してしまい不貞腐れていました。

凝視してしまう。


目を逸らそうと意識すればするほど、逸らせなくなっていく。


それほど長い時間照らされていた訳ではないが、照らす光をはね返す肌には水が玉とり留まっておりその瑞々しさを物語っていた。


スラリと伸びた手足がしゃがむ体制で窮屈そうにしている。


こちらに対して体をよじるようにしゃがみ込んでいるため、腰から肩甲骨のあたりにかけてが丸見えだ。お腹周りはほっそりとしているが、ハリがありうっすらと筋肉の筋がお腹の辺りと背中に見える。腰からお尻にかけては綺麗な曲線を描いて太腿に繋がっており、健康的でいて、魅惑的でもあった。


何とか首ごと視線を動かそうとするが、本能がそれを無視してみ続けようとする。


彼女が何かを言っている気がするが、全然頭に入ってこない。


(鎮まれ!おれの童貞力!流石に失礼過ぎる)


そんなこんなで煩悩と格闘していると、彼女は僅かに体勢をを変えた。体をモゾモゾと動かしつつ、チラリと後方を確認した彼女は再び俺を、いや赤ん坊を見てから勢いよく俺から離れるように斜め上方向に飛んだ。


「あ、あぶない!」


勢いよく飛んだが、後ろは人間の腕まわり程の太さの枝がある。ワンテンポ遅れて反応はしたが、惨状が広がる予感がした。


だが、予感は外れた。


彼女の飛んだ先、後方斜め上側の枝葉が彼女を避けるように広がり、彼女が通り過ぎた後銀の軌跡を包み込むように閉じていった。


後に残るのは自分がジャンプしても届くかどうかという高さの枝葉に数本絡まる長い銀髪と、水が湧き出す音のみだった。


「なんだってんだよ…」


混乱した状態で立ち尽くす。最後に彼女が見せた困ったような笑顔が脳裏にこびりついており、思考がちっとも前に進まない。


だが、少しするとキツく抱いた状態のままだった赤ん坊が腕の中で暴れ始めたため、空回りする思考を打ち切った。


「今出来る事から、一つ一つ、だ」


呟くと、赤ん坊を一旦脇に座らせ、自身は湧き水に向かった。湧き水を手に溜めると幾度か顔を洗い、口を濯ぐ。


最後にひとしきり水を飲むと、赤ん坊を再び抱えて倒木の麓から離れ、元の大木の元へ戻ってきた。


大木の近くには先程放置した外套が落ちたままだったので拾い上げ軽く埃を払う。


改めて持ってみると、軽く、伸びはしない丈夫そうな造りである。また、裏地は表地のゴワゴワ感が嘘のようにフワフワとしていた。


「良かった…」


安堵のため息をつきつつ、裸だった赤ん坊に微かに甘い香りのするその外套を巻き付けた。目が覚めてから、これまで裸のままであった赤ん坊に罪悪感を抱いていたのだった。


窮屈なのか、暴れるので何度か巻き直しているが中々大人しくならない。体勢を横にしたり縦にしたりと試行する内に段々とぐずり始めてしまったため、一旦中途半端な巻き方の外套ごと優しく赤ん坊の体の下に手を差し込み抱き上げた。


ボトリ


外套の中から何か中身の詰まったようなモノが落ちた音がした。


(もしかして、知らない間に動物でも入ってたのか!?)


慌てて足元、赤ん坊の真下を確認すると、ご飯を食べるのが、作るのがめんどくさい時にお世話になっていた愛飲のギター形パウチ飲料が落ちていた。


『ギター・イン・ゼリー 即効シャウト!』


「え?」


立ち直りかけた思考が再度混乱する。

この森に来てから、見た事がないもの。最後に見たのは恐らく3日前のコンビニで買って帰った時であるため、何故ここにあるのか、しかも何も無い事を確認した外套の中から出てくるのか。もっと言えばおおよそ3ヶ月周期で変わるパッケージだが、俺が買った時のパッケージそのものだった。


その形とイン・ギターだろというツッコミがよぎるふざけたネーミングが特徴的なこの飲料は2度と同じ形が出ない事でも有名で、つい先日のパッケージ変更で晩年のカート・コバーンモデルから晩年のジミヘンモデルになったばかりだった。


俺はその飲料の薬草と香辛料を混ぜたようなパンチの効いた味が嫌いだったが、名ギタリストの晩年モデルという悪趣味さと、十本ごとのまとめ買いでオマケとして付いてくるパッケージのモデルとなったギターの持ち主が1番輝いていたという時期のプロマイドが何だか妙にカッコよく見えてついつい買い続けてしまっている。


今ではその特徴的なパンチの効いた味にも慣れてきてはいるのであるが。


ところで、目の前には現行のひとつ前のモデルであるカート・コバーンモデルが落ちていた。


近所のコンビニは入れ替えが遅く、モデルチェンジから2週間近く経っても置いてあったが、普通であれば手に入らないものだ。


何故かはわからない。だが、腕の中の赤ん坊がくるまれた状態から器用に腕を抜き出し、必死にその手をギター型パウチに伸ばしているのをみて、考えるのをやめて取り敢えず拾ってみた。


色々と手の中で弄るが特別変な所は無い。『寝起きシャウト!お爺ちゃんも赤ちゃんもシャウト!※3歳以下には本製品の半分量程を与えて下さい』

なんとも、ターゲット設定が不明なコピーが並ぶ通常通りこパウチだ。


そういえば赤ちゃんにも与えて良いのかと、ふと赤ん坊を見ると未だにパウチに向けて手を伸ばしている。


「やっぱり、腹減ってんのかね」


呟きつつ賞味期限を見るが、はるか未来を示している。


「ヨイショと」


赤ん坊を上腕部側に出し直し、抱いている側の手を自由にすると、もう片方の手を赤ん坊を回り込むのうに伸ばし、握ったパウチの先端、ギターのヘッドにあたる部分ゆ今しがたフリーにした出で摘んだ。


パウチの本体側を掴む手を少し前後にゆすり、切れ込み部から裂け始めたのを確認しゆっくりと本体を体側にスライドさせた。


開けた瞬間、中身が少しこぼれる。ニセモノ説を持っていたが、この微妙なこぼれ具合はやはり本物だと指にかかるゼリーから感じ取りつつパウチを鼻先に近付け匂いを嗅いだ。


「うーん」


こんか匂いだったような、そうじゃないような、取り敢えず確かめたものの、買い始めた時以来匂いなんて嗅いでいないため、分からない。


(えーい、ままよ!)


直ぐに飲み下さないよう舌に力を入れて先端から少しはみ出るゼリーを口に入れた。


「うん」


軽く頷くと、もう一度パクリお口を付け中身を吸う。この何とも言えない味加減、本物であった。


俺がパウチに口を付けた瞬間、それまであうあうと手を動かしていた赤ん坊がピタリと止まった。


そして、テイスティングを終え容量の半分程度を飲み下し口を離す。赤ん坊を見ると悔しいような、悲しいような何とも言い難い表情をしていた。


「まてまてまてまて!泣くなよ!」


元々、半分程飲んだから渡そうとしていただけに、その泣き出しそうな姿に慌てた。焦って渡そうとしたためにパウチを持つ手に力が入ってしまい、中身が飛び出し手の甲をゼリーが伝う。


「いまから、あ…げ…ぁ….」



ボトリ、ボトリと手の甲を伝うゼリーと一緒に言葉も力なく溢れていく。赤ん坊は段々と顔に力が篭っていき眉間にシワが寄っている。


ジッとコチラを見ながら目に力が込められていく。半開きだった口が横に広がるのを見て思わず顔を背けた。


(ごめん!悪いのは俺だけど、俺じゃないんだ!)


特大の泣き声に備えて首筋に力が入る。だが、いつまでたっても泣き声が聞こえない。


まるで時限爆弾を抱えている気分だった。意味は無いのだろうが、ゆっくり、そーっと横に背けた顔を赤ん坊に向ける。瞑った目を薄く開けて、赤ん坊の顔を見ると何事も無かったかのようにこちらを見ていた。


ほっとして、改めて目を開け赤ん坊を見る。

誰が聞いてくれる訳ではないだろうが謝った。


「ごめん…よ…ぇ?」


その謝罪も、言葉は最後まで発せられずに口の端からこぼれ落ちる。


停止した脳味噌にありありと運ばれる光景では赤ん坊が新たなパウチを持っていたのである。自分の手の中にはまだゼリーが滴るパウチがある。1個目の段階で該当も再度チェックした。だが、赤ん坊は新たなパウチを手に抱き、ギターヘッド部分をしきりにしゃぶっていたのだった。

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