謁見
シトラ邸 応接室
「遠くからよく来てくれた。私がローズ・ムン・シトラだ。」
正門の衛兵に手紙を見せ、2人言われるがままにこの部屋に入った。まさか本人がいるとは思いもしなかった。いや、警戒すべきか。わざわざ、話す時間を割いたのだ。何か重要な話なのか。
「お初にお目にかかります。ルガルと申します。」
如何にも将軍家の風格を纏った女性に一礼する。年は想像していたより若そうだが、明らかに年上だ。
「なぁに。そんなに固くなるな。ヴェルもご苦労だった。元に戻って良いぞ。」
「へ?」
なぜヴェルの事を? 元に?
いろんな可能性が脳内を駆け巡り思案する。最終的にルガルの思考が停止した。
「はーい。」
ヴェルは返事をした。
身震いをして身体を震わせると尻尾が消えた。犬耳はサラサラの髪に変わり、人間の耳がひょっこりと生えた。あと、心成しか。いや確実に胸の膨らみが大きくなった。
「改めまして。ヴェル・ファイ・セイルです。どお?びっくりした。」
ヴェルの声が軽く放心していたルガルを現実に引き戻す。目を擦るが現実だ。これは質問せざるを得なかった。
「えっと、その...これはどういう..?」
「ヴェルはお前を監視そして護衛して居たのだ。」
「と、いうのは?」
「単刀直入に言うと試練だ。軍に相応しいか。そして、ヴェルの番として相応しいかの。機密保持能力も高いようだな。ヴェルの質問も上手くはぐらかしていた。」
質問?あれか。魔樹についてよく質問して来たのは。
「ん?聞いていたのか。どうやって。初日、ヴェルの身体を洗った時そんなものは… 耳か?いや、洗ったな。隅々まで洗ったはず。他に洗ってない所なんて…」
「ハッハハハハ。君面白いなw 彼女を見てみろw」
言われるがまま隣を見る。ヴェルは机に突っ伏していた。髪で顔を見ることは叶わなかったが、背中がプルプルと震えていた。
「睡眠魔法をかけていたから何もしらなかったんだなw 私は聞こえていたぞ。無言で洗う音が。」
「一体、どこに盗聴器が?」
魔樹の森で使えるのだから非魔力依存の道具と推測する。
「耳だ。もちろん外からは見えない。彼女は魔法で耳の形が変わっていたただろう。それによって上手く隠せたのだ。」
なるほど納得。
「この前の貴族の奴も試練だったんですか。」
「違う。全くの想定外と言うやつだ。ヴェル、お前ならバレずに魔法で倒せたろうに。」
「あの時は何故か上手く使えなくて…」
「あの…これで試練は終わりですか。それに番って何ですか? まだ軍に入ると決めたわけでは…」
「いや、今日が最後のテストだ。私と戦え。仮に君が勝てたなら、選択の自由をあげよう。」
しばらく休みます。