世界は程よく残酷に。
僕からの挑戦状です。簡単です。
「千代、きいた?」
夜も更けてきたころ、部屋で本を読んでいると着信があった。私の唯一の友達と言ってもいい、結衣だ。
野良猫が走り去る様子を窓から見下ろしていると、結衣は相変わらず無反応な私に気をとられずに続けた。
「今さっきママに聞いたんだけどね、この地域に不審者が出たんだって」
「え?このご時世に?」
野良猫が消えたと思ったら、子猫が後ろについていくのが見えた。まるで、何かから逃げるかのように、
「ママが仕事帰りに黒ずくめの男を見て、その先に女の子がいたんだって」
「えぇ?それだけ?」
憎みたくなるくらい、しょうもない話だった。それだけで不審者にされちゃ、世の男はみんな不審者だよ。きっとそれもたまたまでしょ。そうまくし立て、私は電話をきった。
妹が、私の友達が来たと呼びに来たのはその直後。
瑠璃色の玄関を開いた瞬間から、私の記憶はない。
さて、不審者はどこにいるのだろう。