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マフラーの軍狼  作者: sorabo
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第零話~眠らぬ街にも朝は来る~

閲覧いただきありがとうございます。soraboソラボという名前で活動しているものです。名前の由来は自分の好きな食べ物、塩おにぎりの英名、salt rice ballの頭文字をとったものです。以後お見知り置きを。さて、今回が初投稿となります。あらすじにもあります通り、このサイトの中でもかなり文章力は下だと思います。が、「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますように、好きで続けていたらそのうち文章力も上がっている・・・そんなものだと思います(希望的観測)拙いなりにも頑張って参りますので応援していただけたら幸いです。

※この小説は以前投稿していた小説の改訂版、再投稿です。対応する話数を投稿したのち、以前の分については削除させていただきますこと、ご了承ください。

午前六時。北半球の五月の朝はまだ肌寒く、風が吹くたびに指先に刺されるような痛みが走る。思わず動きが鈍り、縮こまりたくなる。東の空は少しばかり白んでいるが大部分は青黒い天井に覆われており、無数の星明りが闇を和らげているばかりだ。しかしそれと正対を成すように、街には既に多くの光が灯っていて、市場では漁港から送られてきた魚介類の競りや、野菜の朝市に集う市民の活発な声が飛び交っている。


 サンティレア。アプロニア大陸最北端に位置する、面積人口ともに最大の国、ヘイグターレ帝国の首都たる巨大都市は、早朝でも平穏が訪れることはない。衣食住はもちろん職業、治安など人間が生きていくうえで必要なものは沢山あるが、それらの不足の部分をアプロニア大陸の人々は魔法で補っている。莫大な人口と国力を支えているのは、昼夜問わずに行われている魔法の研究である。国自体も長い歴史を持っているが、黎明期から粉骨砕身、魔法に力を注いできたおかげで、ヘイグターレは他国に比べ頭一つ抜きんでている。


 また、この都市は中心部に向かうほど海抜が低くなる器のような地形をしているため、「擂鉢都市」とも呼ばれている。歴史あるこの国は、度重なる超大型の魔法実験による地盤沈下で中心部が沈んでいったといわれているが、詳しいことは今でも判明していないらしい。


 勿論この地形は敵国の襲撃や災害時には弱点となる上、空気の流れも悪くなるため、都市経済の根幹を成している商業地帯と交互に、層をなすように城壁も幾重に構えられていたり、水害を防ぐために運河が張り巡らされていたり、壁の中腹に通気用の格子が作られていたりする。

 

この城壁も往年にわたるヘイグターレの魔法研究の結晶で、五層の城壁はいずれも厚さ20m以上、高さ50mを誇り、山と呼んでも差し支えない。内側からメイガー、ギガロ、テラミア、ペタヴィ、エクスードと命名されており、最も外にあるエクスード城壁に至っては厚さ80m、高さ150m、総延長540㎞にも及ぶ巨大な建造物で、アプロニア大陸に存在する建造物で最も大きい。建造にかかった年数も12年で、これまた最長の建造年数とされている。なお、メイガー城壁の内側にはいわゆる中央省庁が密集しており、その中心部に皇帝の住む城、シュトラメルグ城がある。




 そんな巨大な擂鉢都市を最外壁、エクスード外壁の頂上から一瞥した黒髪の青年は、先ほどまで勤しんでいた魔法の鍛錬を一旦止め、城壁の端に腰かけた。市民の家々が羽虫ほどにも見える高さであれば、どれだけ派手な魔法を使おうとも騒音被害など無いに等しい。また、城壁自体に魔法耐性の呪文が張り巡らされており、生半可な魔法では傷すらつかない。魔法を扱うものとしては城壁はこの上ない練習場所である。あまりにも広いので青年の近くに他の魔法士たちは見当たらないが、多くの者が練習していることだろう。



 「ついに合格か・・・。待ってろよ、兄貴」



 彼の名はキドロア・セルエイク。黒い髪に黒い瞳、高身長の青年だ。キドロアにはイヴァンという4つ上の兄貴がいる。イヴァンはヘイグターレの定める国家魔法試験に三年前合格し、国家魔法士となり、中心部で働いている。その試験にキドロアは三日前に合格したばかりである。


 様々な配属先があるが、キドロアは国の魔法軍に入るつもりでいる。今日はその魔法軍を一目見学しようと計画しておりそれに向かう前に魔法の鍛錬をこなしているところだった。




 日課に一段落つけ、壁に凭れ掛かるようにして腰を下ろす。これから待つであろう様々な出来事に思いを馳せていたところで、見覚えのある緑髪の女が、魔法を使い地上からこちらに浮上して向かってきた。キドロアはおもむろに腰を上げ、彼女の着地したところへ歩み寄る。女も着地するとキドロアの方へ向かっていく。



 「ロアー!!―――やっぱりここにいたのね」



 小走りにキドロア駆け寄ってきた少女はフローリカ・シレア。キドロアと同じく三日前に国家魔法士の試験に合格した、キドロアの幼馴染である。


 口数の少ないロアには到底ついていけないほどの活発系女子である。長くてツヤのある深緑の髪を項辺りで一つに結んでいる。容姿端麗で魔法の腕も立つ。試験の前から、試験官―――もちろん試験を受けに来た男共にも―――注目されていた。



 「・・・よくここにいることが分かったな」



 ロアは嘆息した。フローリカや家族、親しい人からはロアと呼ばれている。親しい間柄であるなら、名前を短くして呼ぶ風習がヘイグターレにはある。同様、フローリカもリカと呼ばれている。



 「イヴァンさんに聞いたんだ。ロアのことだから多分こっち方面にいるだろうな、って」



 リカは笑いながら言った。笑顔も美人だ―――とは思うロアだが、彼は彼女を恋愛対象として見ていない。



 「とか言って、本当は夜もすがらいい女でも探してたんじゃないのか?」



 ―――同性愛者、いわゆるレズビアンだからである。



 「やだなあ。いくらわたしでもそんなことはしないよ。ていうかついさっきまで寝てたし。ロアに用事があって追いかけて来たんだから。―――それにしてもそのマフラー、一年中してるわよね?」



 「これがないとどうも落ち着かなくてな」



 ロアは面倒くさそうに目をそらす。ロアは冬はもちろん、夏でもマフラーを肌身離さず持っている。一年を通してさほど気温の変化のないヘイグターレといえど、夏ともなれば気温は30度を超す。しかしロアは頑なにマフラーを持ち歩くのである。



 「まあ、今はそんなことはどうでもいいの。用事ってのは・・・これ」



 そういってリカは肩からかけていたポーチから一枚の紙を取り出した。



 「はいこれ。職種選択希望の申込用紙」




 ヘイグターレでは試験の数日後に、合格した者には、国家魔法士として研修を受けるため部署の“仮決定”が行われる。大きくは6つに分類されるヘイグターレの魔法士の職種だが、仮決定の段階では6つから選ぶことになる。すぐに現役魔法士同等の仕事が与えられるわけではないし、仮決定のため所属先によって研修の内容は著しく変わるわけではないが、特に理由がなければ本決定と同じところに希望するのが一般である。


 もちろん職種は細分化すれば無数に存在する。また、仮決定の後、研修が終わったら更なる職種選択のため再び希望をとることになる。その二度目の希望により決まった配属先がその人の本当の所属部署となる。



 「それの提出期限は一か月以上先だろ?いくらなんでも早すぎるんじゃないか?」



 「すでに決めている人は早めに提出しておくと優先的にその職種から声がかかるんだって。聞いたことない?」



 「いや、ないな・・・。初耳だ」



 そういってロアは紙を受け取―――らず、ほんの少し口角を吊り上げ、こう続けた。



 「だって、俺これもらってるからな」



 そう言ってロアはズボンのポケットから折りたたまれた青い紙を取り出し、リカに見せた。



 「それって青紙!?―――ごめんなさい、少しあなたを見くびっていたようね」



 「試験では本気出したんでね」


 その紙には”特待生仮希望調査免除通知書”と書かれている。国家魔法士の試験は筆記と実技に分かれており、その両方においてきわめて優秀な成績を収めた者については仮希望が免除され、通知書に記載されている部署から直接招待のお声がかかる、というシステムがある。いわばヘッドハンティングだ。もちろん希望するところでなければ断って良いし、希望を出した部署は優先的に彼ら特待生を採用する。そしてロアの招待された部署は―――帝国魔法軍、ロアの希望するところであった。


 「まったく……。そういうとこだけ抜け目ない男ね」



 「当たり前だ。―――ようやく師匠と同じ舞台に立つことができるんだからな」



 ロアには魔法の師匠がいる。名前はディアゲラ・フィスドナーク。帝国魔法軍第一部隊の部隊長を務めている人物だ。魔法の腕はロアの比ではなく、設立当時から今までの帝国魔法軍において魔法適性の高さは最高級、史上最強の部隊長とも噂される人物だ。容姿端麗、頭脳も明晰で、信頼を越えもはや信仰といっても過言ではないほど慕う部下もいるほどだ。ちなみに師弟というだけでロアとディアゲラの間に血縁関係はない。


 通常、アプロニア大陸にある国では、魔法は親から子へ、子から孫へと教えられ受け継がれていくものだが、ロアの父親はロアが六歳の時に不慮の事故で亡くなっていたため、父の友人であったディアゲラから教わることとなったのだ。



 「イヴァンさんとは違うとこになるのね」



 イヴァンはサンティレアの中央部に位置するヘイグターレ帝国立中央魔法司院、通称帝立央魔院で研修を受け、そのまま帝立央魔院の第一号館にある、総務部に配属された。


帝立央魔院には全部で四つの館があり、第一号館は魔法士のあらゆる雑務を取り扱っている、“サンティレア市役所”とも呼べる建物である。



 「兄貴は一号館で管理職に就きたいと言っていたからなあ……。本望なんじゃないのか。そういうリカはどうなんだ」



 ロアの記入用紙を覗き込みながら話しかけていたリカに、ロアは尋ね返した。



 「私?私は帝立調理魔法室にしたよ」



 この国では調理をする際に魔法を用いる場合、この帝立調理魔法室の卒業証明が必要となる。就学期間は3年だが、飛び級制度が存在し、早いものは2年以内で卒業する。調理師、料理人、飲食業を営む者ははもちろんこの資格が必要だが、国家魔法士でない者、とりわけ一般女性においてこの資格をとるものは多い。



 「あれ?お前帝立高等魔法学校に行くって―――」



 「調理魔法室を卒業してからね」



 ヘイグターレでは国力維持の名の下、魔法士を絶やさない為に、魔法教育にはかなり力を入れている。その結果、帝立央魔院から分化する形で出来たのが帝立高等魔法学校である。就学期間は4年と7年がある。ヘイグターレにおいて、12歳までは義務教育とされ、魔法とは関係のない読み書きなどの世間一般の知識を習い、卒業してからこの学校に進学し魔法を勉強するか、魔法には関わらず働くかを選べる。少し学費が高く、分校も多くはない。親が夭折したロアは通っていないが、リカにとっては4年間、生徒として通った母校である。リカは懐かしむ様子もなく、得意げに答えた。



 「まあ一年半ぐらいで調理はサクッと卒業しちゃうだろうね。その後は魔法学校の教師になるから」



 自身に満ちて夢を語るリカとは対照的に、ロアは神妙な顔をしていた。



 「何よ?私の実力に不満でもあるの?」


 

「いや、実力に関しては全く心配はしていない」



 「じゃあ何よ?」



 「お前が教え子の女子生徒を襲う気がしてならないんだが」



 「そんな大勢の人間が見てるまえじゃしないわよ!」



 「二人きりだったらするのかよ」



 リカの不完全な否定をロアは嘆息した。リカがレズビアンでなかったらさぞかしモテただろうとこれまで幾度となく考え、その度に諦観に浸るロアである。



 「せっかく容姿は良いのに中身がこれじゃなあ・・・将来お嫁に行けるかどうか」



 ロアの本音混じりのつぶやきにリカは少々驚いた顔をした後、大笑いしながら言った。



 「ロアにそんな心配をされるとはね。大丈夫。さすがのあたしもそこら辺は切り分けて考えてるわよ。女同士じゃ子作りできないことぐら知ってるわよ」



 「朝っぱらから下世話な話をするんじゃない」



 「あら?結婚云々の話を振ったのはそっちじゃない?まあいいわ。それに私にだって男性の想い人の一人や二人いるものよ?」



 「いたとしてもそこは一人にしろよ。でも初耳だな。」



 ロアは目を細めた。



 「誰だ―――なんていう野暮なことは聞かないでおこうか」



 「それが賢明ね。まあきいたところでロアには教えないけど」



 リカは再び得意げな顔をして笑った。



 「じゃあ私は先に街に戻るから。どうせロアのことならまた外壁の上で魔法の鍛錬でもするんでしょう?」



 ロアは頷いた。夏は太陽が地平線から完全に昇り切るまで鍛錬を続けるのがロアなりのルールだ。



 「じゃあね、特待生さん」



 リカは追風タービルを使い、自身を勢いよく浮き上がらせると、風の向きを下から後ろに変えあっという間に飛び去って行った。この追風タービルもほとんどの魔法士が使える基本的な魔法である。



 「相変わらず忙しい奴だな……。まあ鍛錬もノルマ自体は終わってるんだが……。たまには早めに切り上げて、俺もぼちぼち行くか」



 ロアも追風を使い、街の中心部へと飛び去った。朝日が顔を出す東の空を流し見、目を細めながら青紙を折り畳み、再びズボンのポケットへ押し込んだ。



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