黒猫との出会い、そして転生。
やる気はないが自分はやれば出来る、但し努力はしたくない。他人に厳しく自分に甘く。
自分が楽しければそれでいい。
これが俺の今までの総てでありこれからもそうだ。
一日中居たパチンコ屋から出て、もう日も早くなりぐっと冷えてきた薄暮の街を歩く
「朝から並んだ甲斐があったな」
そう呟いて換金した金を財布に仕舞い通りを歩く
日が落ちてきて街の人々は仕事を終えて家路につく時間帯だ。
俺は仕事をしていないので関係ないが。
この生活を始めたのは大学生の時である
大学でなんとなく始めたこの玉遊びや回胴遊技から始まり様々な賭け事にのめり込み、その総てに惹かれて気づいたら大学を中退し賭け事に魅せられていった。
その中で悪い仲間を見つけて、公にはできない事もしてきた。
雀荘で偶々同席した客に見せかけて仲間とサマをしたり
裏カジノでディーラーを抱き込んで場を荒らしたり。
ただ最近は、いい財布が出来たのでそんなリスクを犯す必要もなく日がなフラフラしているプー太郎である。
「さて、今日の飯は何かなぁ、と」
訂正、プー太郎どころかヒモであった。
最近はよく行っていたスナックの女の家に転がり込んで生活の面倒を見てもらっている。
何時も出勤前に飯を拵えて店に出ていき夜更け過ぎに帰って来るので、顔を合わす時間は少ないのだが何故か俺を気に入っているらしく、しょーくんは私がいないとダメだけど本当は何でもできるすごい人なんだよね!と、俺を持ち上げて面倒を見てくれるので非常に都合がいい。
「今日は懐も暖かいし、たまには甲斐性でも見せとくか 」
偶に日頃の感謝とか言って下らない物を与えるだけでもあの手の生き物は悦ぶのだ。
そんなことを考えながら普段は寄らないアクセサリショップでセールのワゴンから適当にワンポイントのピアスを買い包装してもらう。
「あとはスイーツでも買っとけばしばらくは上機嫌だな」
ピアスの入った小さな紙袋をクルクル回しながら家の近くにあるケーキ屋を目指す。
あぁ、世間から見たら蔑まれるであろうこの生活の何たる素晴らしきことか。
生きる上で必要な雑事全てを賄ってもらい、己の好きなように適当に生きる。
勿論、昔話で聞くような王様のような生活はできないが、あの小さな部屋で王様であれるだけで十分なのだ。
――――――――
家の近くの、―と言っても女の家の、だが―ケーキ屋で二三ケーキを購入しあとは交差点を渡ると家に帰りつく
すると通りに面した家の生垣からするりと猫が這い出てきた。
真っ黒で艶やかな毛並みをしていて一目で野良猫では無いと分かる雰囲気の猫だ。
ふと、その猫を見遣ると黒猫もこちらを向いてジッとしている。
「猫は気楽そうでいいな」
そう呟いて猫から視線を外し横断歩道に踏み出した時
「誰が気楽よ、この阿呆が」
後ろの猫しかいなかったはずの空間から向けられた声に反射的に振り返った
「あら、聴こえたのね。あなたのような人間が適合者とは思わなかったわ。」
猫が喋っていた。
「おわっ!、…たちの悪いいたずらか?」
こちらをジッと見つめる黒猫の首に紫の首輪とそこで揺れる小さな鈴が見えた、猫の口が動くとかそういうギミックがあったらもっと驚いたんだけどな。
「ちょっと、何無視してるのよ」
「ちょっと急いでるんでそういうのほかの人にやってもらえますかねー」
こういうイタズラに付き合わされるのは癪なのでさっさと帰ることにしよう
俺には家に帰って勝利の美酒を味わうという何事にも変え難き使命があるのだ。
「人の話くらいちゃんと聞きなさいよ、めんどくさくなったからもうこのまま"連れていく"わ」
そんな呟きが聞こえた。
いい加減イラッとして振り返った、とこまでは覚えている。