新生邪武初陣
タイトル毎に投稿してます
『ピン~ポ~ンパンポ~ン』
「なんだこの校内放送の呼び出し音みたいな放送は?」
いままでなかった呼び出し音に巴は訝しげな顔をする。
「ああ。常連なら知ってるお約束です」
「お約束?」
「邪武ちゃん。邪武ちゃん。試合が始まります。至急リングまで来てちょうだい。繰り返します。邪武ちゃん。邪武ちゃん。試合が始まります。至急リングまで来てちょうだい」
『ピン~ポ~ンパンポ~ン』
「は、はあ?」
巴は思わず滑ってこけそうになる。
「邪武の場合、試合だけ見にくる観客っていうのも結構いるんですよ。だから、公式戦ではああやって宣伝しないと、一部の観客が怒るんですよ」
「は、話が見えないが」
「邪武は勝っても負けても可愛いんです。とくに、負けた瞬間にネコミミがへにゃとするところがめちゃくちゃ可愛いんです」
武は目から滝のような涙を流し両手を握り締めてめ~いっぱい力説する。
「お、おいおい」
巴は思いっきり引く。ギャグ漫画なら片頬に罫線が入っていてもおかしくない。
「うぉ~こうしてはいられない。いい席を取りに行かねば」
武は涙を流しながらリングへと走っていく。
「・・・S席とかに座っていたら踵だな」
ぼやきながらリングサイドにやってきた巴が見たものは、デジタルビデオカメラを片手にパイプ椅子に座ってワクワクしている武の姿だった。
「馬鹿者が」
巴はほぼ垂直に右足を上げる。
「武!」
「はい?」
呼ばれて武は振り向く。
『スコーン』というきれいな音とともに巴の踵が武の脳天にきれいにヒットする。
「以後慎むように」
「はひ」
頭のてっぺんを押さえて武は半泣き状態で返事をする。
「邪武ちゃんノルマ一人目標二人。いい?」
巴はリングサイドから邪武に声をかける。
「うん。がんばるにゃ」
邪武は巴の方を振り向くことなく答える。
「精神集中はうまくいってる」
巴は軽くうなずいて笑う。
「バトル。レディー。ゴー」
レフリーが腕を交差させる。邪武の相手は背は邪武より若干高い程度の中肉中背の男。黒帯の空手家である。
「せぇいいい」
二人は十分ほどにらみ合いをしていたが、まず男が息吹とともに正拳をくりだす。邪武は余裕をもってこれを躱した。
「はぁああ」
続けて男は右の回し蹴りを邪武の側頭部に放つ。
「にゃ」
男の蹴りを邪武はかろうじて両腕でブロックする。だが、ウエイトの無さが災いしてブロックごと蹴りの方向に動かされる。
「痛いにゃ」
邪武の腕がみるみる赤くなる。
「うぉりゃ」
男は再び回し蹴りを繰り出すが、邪武はしゃがみながら一歩踏み込んでこの蹴りを躱すと、男の軸足の膝裏を蹴る。
「うわ」
たまらず男は前に倒れる。
「せぇの」
邪武はそのまま男の片足を取るとそのまま裏アキレス腱をホールドする。
「のぉごお~」
男はたまらずレフリーをたたく。
「ギブアップ。勝者邪武!」
レフリーは邪武の肩を軽くたたき、勝利を伝える。
「やったにゃ」
邪武はぴょんぴょん跳ねながら、投げキッスを振りまきリングの中を回る。
「せ~の~邪武ちゃ~ん」
昔のアイドルコンサートのようなコールが会場を包む。
「邪武ちゃん。レディ」
巴が小さいが鋭くはっきりとした声で叫ぶ。すると、邪武は全身の毛を逆立てて飛び上がる。
「イエスコマンダー」
シッポの毛をボワボワにして邪武は最敬礼する。
「おいで」
「はい」
磁石に引き寄せられるように邪武は巴の前にくる。
「よくやった。つぎも期待しているぞ」
巴は邪武の頭をくしゃくしゃにして誉めると、邪武はこれでもかという笑顔をみせる。
結局この試合は巴が指示したように武の右回し蹴りで勝負がついた。そして、事実の準決勝戦となった。
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