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れでぃ その4

博多スターレーン。JR博多駅の新幹線口から歩いて十分ぐらいの場所にあるボーリング場だが、イベント用の多目的ホールも存在し、色々なプロレス団体の興行がおこなわれることで一部の方々には全国的に有名な場所である。

「今日もがんばってね邪武ちゃん」

スターレーンに入る邪武に黄色い声援が飛ぶ。ファイターとしては最低ランクの邪武も人気は高く、私設のファンクラブも存在していたりする。

「応援ありがとうにゃ」

邪武は声のしたほうに振り返ってブンブンと手を振る。

「なかなか人気があるな」

巴は感心したように邪武をみる。

「巴さん。この商売お客さんあってのもの。ファンは大事にしないといけないにゃ」

「にしては武を応援する声がないが?」

「自分はローンウルフですから」

武はめーいっぱい引きつった笑いをする。

「武は大物食いすることもあればガチガチの銀行勝負にあっさり負けたりもする大穴メーカーにゃ。おかけで一部の女性ファン以外の常連さんには受けがよくないにゃ」

「あ、ばか。いらんことを」

武の顔がみるみる青くなっていく。

「武道は心・技・体をバランスよく鍛え磨くことが肝要だと師匠にいわれていたのに、どうやら心の修行は怠っていたようね?」

巴の顔が嬉々としたものに武の顔が青から蒼白なものに変わる。

「武ちゃん大ピーンチ」

「こ、こら。邪武。そうやって煽っちゃだめだ」

武は滝のような汗を顔一杯にかきながら抗議する。

「う~む。思った以上に武の根性はねじれているようね。この試合が終わったらきっちり矯正するから覚悟するように」

「む~。思った以上に武の根性はねじれているにゃ。矯正されるのをみてゲラゲラ笑ってやるにゃ」

巴が右手の親指で喉を掻っ切るしぐさをすると、邪武もマネをして右手の親指で喉を掻っ切るしぐさをする。

「完全に感化されてしまった」

武は後悔していた。バトルファイターズに勝利するという目的の為に子悪魔を悪魔に進化させてしまったのだ。涙が止まらない。

「ところで試合の予定はどうなっている?」

「え~スターレーン組は自分たちを含めて八組です。勝ち抜き戦なので、序盤戦で怪我をすれば以降の戦いはどんどん不利になります。しかし、だからといって体力温存をしたり怪我を恐れて躊躇すれば勝利はおぼつかないでしょう」

「気のせいか卑屈になってない?」

「まさか。気のせいですよ。巴様」

武は揉み手をしながら腰を屈める。

「卑屈そのものだ」

巴はどこに隠していたのか、ホテルの名前の入ったスリッパで武の頭を引っぱたく。

「うう。いままで築いてきたこの俺の立場が砂上の楼閣のように崩れていく」

「武。お前いつから保護動物に成り下がった?」

「保護動物保護動物」

邪武が武を指を差して笑う。

「もお~戻れない~トホホ」

武は歌うしかなかった。



「注意すべきチームは?」

控え室(間仕切りで区切ってテーブルと椅子が置いてある程度でしかないが)に入って一息ついたところで巴は尋ねた。

「そうですね。注意するとしたら、予選の最終戦で当たるであろうチームサンダーですかね。リーダーは神獣ライトニングパロンといいます」

「プロレスラーみたいな名前ね」

「みたいもなにもライトニングバロンは元プロレスジュニアヘビー級の八冠チャンピオンを父に持ち、自身もジュニアの立派なマスクマンにゃ」

邪武がホットミルクをチビチビ飲みながら答える。

「プロレスラーか・・・格闘技をショービジネスにした・・・」

巴は組んだ両手で挟むようにカップを持ってホットココアを一口飲む。

「なめてかかると痛い目みますよ」

「魅せることを追求し極めた、もっともタフな格闘技。それがわたしのプロレスに対する評価だが」

「そうですか?ま、一茶も筆の誤りにならないように気を付けてください」

「それをいうなら弘法も筆の誤りにゃ。それに引用がへんにゃ」

邪武に間違いを指摘されて武の顔がみるみる真っ赤に染まる。

「ちょっとした間違いじゃないか」

「一茶は俳人で弘法大師はぼーさん。ぜんぜんちょっとじゃないにゃ」

邪武はちっちっちっと自慢げに指をふる。「邪武ちゃんに指摘されるようではね。でもよく一茶が俳人で弘法大師が坊さんだって知ってたね」

巴は感心したように邪武を見る。

「弘法大師さんはお遍路さんにゃ」

「お遍路さん?ああ、四国霊場八十八個所のことね」

巴はポンと手をたたく。

「一茶は雀の子で覚えてたのにゃ」

邪武はにぱっと会心の笑みを浮かべる。

「あの~バロンの説明を続けてもよろしいでしょうか」

話が限りなく脱線していくことに気がついて武は揉み手をしながら話に割り込む。

「そうだったね。続けてくれ」

「はい。え~バロンのファイトスタイルはプロレス。かなりの技巧派で、打撃と投げに強烈なフィニッシュホールドを持っています」

「フィニッシュホールドはなに?」

「打撃は浴びせ蹴り。投げはライガーボム」

「他の二人は?」

「あとの二人もスタイルはプロレスで、体格のゴツイのがストロングスタイルでフィニッシュホールドはベアハッグ。背の低い女性はルチャでフィニッシュホールドはストレッチプラムです」

武はどこから取り出したのか、いまどき持っているのは信楽焼きのタヌキぐらいではないかと思われる巨大な大福帳をめくりながら答える。

「要チェックってことか。それはそうと中継は入るのか?」

「入りません」

武はブンブンと顔の前で手を振る。

「そう。それはそうと、ファイター登録まもないわたしの初陣はいきなり緒戦で派手にデビューするのか、秘密兵器のまま威圧しておくのか」

「そうですね・・・邪武はどう思う?」

「うみゅ?あたいはどっちでもいいにゃ。ま希望としては巴さんに先発速攻で決めてもらうというのがいいにゃ」

武の問いに邪武はポッキー五本を横にならべてから一気に頬張るという贅沢な食べかたをしながら答える。

「とりあえず今回の責任者は武だ。判断は任せる」

「そうですか?では素早く地味に仕留めましょう」

武はポンと手をたたいてニッコリと笑う。

「消耗を避け勝つとなればそれが妥当だな。そろそろ時間だな」

巴は懐中時計で時間を確認すると残っていたココアを一気に飲み干すとゆっくりと席を立つ。武も邪武もそれにならってコップの飲み物を飲み干し席を立った。

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