何かが暗躍する その2
「このクソ忙しいときに困るのだよ」
耳障りなノイズを混ぜながら八郎は大会委員会の調査員に嫌味をいう。
「はあ・・・しかし、事態が事態ですから」
男はポリポリ頭を掻く。
「ふん。そこまでいうのなら部屋の臨検は認めよう。だが、臨検にはこちらの人間も立ち合わせてもらうぞ」
「はあ・・・そうですね。その前にチームメンバーを集めてもらえますか?」
男の言葉に八郎はギロリと眼球を動かす。
「そうだな。シンゲツ」
「はい。上の人」
八郎の声に呼応してゴツイマントからガタイからは想像も出来ない華奢な腕が呼び鈴を握って出てくる。
呼び鈴を振るとチリリンと澄んだ音が響く。
「呼んだか?」
「呼びましたか?」
ドタドタトテトテと対照的な足音をたててエンゲツとミカヅキが姿を現す。
「これで全員ですか?」
男は事務的に尋ねる。
「そうだ」
「確かファイターは三名でここには二人しかいませんが?」
「あ、ここにいます」
マントの中からシンゲツがひょっこりと顔を出す。
「でもおかしいな?シンが八郎殿のマントの下に棲息していることは周知のハズだが?」
エンゲツはその長い爪で器用に頬をポリポリと掻く。
「棲息ってゲっちゃん」
シンゲツは苦笑いする。
「ちいっ」
男は舌打ちすると口を押さえて後ろに飛ぶ。と同時に入れ替わるように筒のようなものが放り込まれる。
「注意しろ」
八郎が叫ぶのと同時にバフンという大音響と共に筒は白煙を吹き出す。
「効いたか?」
十分後部屋の中に防毒マスクを被った六人の男が入ってくる。
「手間をかけさせやがって」
一人の男が床に転がった筒を拾う。
「殺さない程度に痛めつけろ」
床に置かれていた八郎が叫ぶと、それまで床にうつ伏せ状態になっていたシンゲツ・ミカヅキ・エンゲツは立ち上がると、自分達に一番近い人間に襲いかかる。
「はぁあぁ~」
エンゲツは大きな爪を振り上げると男の足を薙ぎ払う。
「うぎゃあぁ~」
男は大量の血を吹き出させながらのたうちまわる。
「ひとつ!次いくぞ」
エンゲツは爪についた血を腕を振って払うと次の獲物に襲いかかる。
「あ、えっと、お願いします」
ミカヅキがペコリと頭を下げると相手も慌てて頭を下げる。
「では」
ミカヅキは両手を組むとバレーボールのレシーブをするように男の顎先を掬いあげる。
「がはっ」
男は白目を剥いて倒れた。
「せい」
シンゲツは側転するように両手を床につける。そして倒立状態になったところで足を広げながら体を大きく捻る。
「なっ」
トリッキーな動きに不意をつかれ、男は慌ててガードするが間に合わない。まともに攻撃を食らって吹っ飛ぶ。
「うむ。三人とも良くやった」
八郎は侵入者の襲撃を十分もしない間に鎮圧したことに満足する。
「この人たちどうしますかぁ?」
ミカヅキはピクピクしている侵入者を指で突つきながらシンゲツに抱えあげられる八郎を見る。
「生きてる奴全員を一列に並べろ。一人は情けをかける」
八郎の指示に従い拘束された三人が一列に並ばされる。
「侵入者君。まずは君たちの所属している組織はどこか話して貰おう」
八郎は目玉をキョロキョロさせながら一番右の男に尋ねる。
「喋る気は無いか?そうか・・・ならばお前に用はない。シンゲツ潰せ」
男がぷいと横を向いたのを見て八郎は静かに呟く。
「はい。上の人」
シンゲツは八郎の頭を掲げたまま無造作に男の鳩尾に右の爪先を叩き込む。そしてゆっくりと前のめりになる男の後頭部に足を乗っける。
「よっしょ」
シンゲツの掛け声とともにゴシャと熟れたスイカを硬い床に叩きつけたような鈍い音が響く。
「シンゲツ。これでは角膜が利用できないではないか」
「はあ・・・以後注意します」
八郎もシンゲツも人一人瞬殺したことは問題ではないらしい。
「ミカヅキ。死体は地下の冷凍庫にカタしておけ」
「あい」
ミカヅキは死体の足を持って無造作に引きずっていく。
「と、いうことで情報提供者には生存のチャンスを与えてあげよう。次は君だ。所属している組織の名は?」
「く、九龍だ」
男は絞り出すような声で答える。
「しまった。忘れてた。エンゲツ。嘘発見器をセットしてくれ」
八郎は思い出したようにエンゲツに指示をだす。
「さて、装置をセットしたところで質問再開だ。君『私は女です。九龍に所属しています』と言ってくれ」
八郎の指示に怪しげなヘルメットをつけられた男は怪訝そうな顔をする。
「どうした。明らかに嘘と判る情報と比較しないと判断できないだろう?もし虚偽の情報を提供した場合は容赦無く罰を与えるからそのつもりで」
八郎の言葉に男の顔色がみるみる蒼くなる。
「わわわわわわたしは女です。くくくくく九龍に所属しています」
男が言い終えるのと同時にブーブーと二回ブザーが鳴る。
「どちらも嘘か。シンゲツこの嘘つきの左手を潰せ」
「はい。上の人」
シンゲツは男の手の上に足を乗せると躊躇することなく踏み抜く。
「ぎゃ」
男の左手の指がありえない方向に反る。
「偽の情報は必要ない。偽物と解った時点で処罰するから以後そのつもりで」
八郎には表情というものが無い。それだけに恐怖がある。
「ではもう一度聞く。君達はどこの組織の命令で動いてるのかな?」
「我々は四虎の実行部隊だ」
男が言い終わると同時にピンポーンというチャイム音が鳴る。
「今度は嘘じゃないようだな。で、今回の愚挙の目的はなんだ?」
「使える戦士を発掘スカウトしている敵対組織九龍の邪魔とその成果の横取り」
ピンポーン
「ほお~いきなり正直だな。結構結構」
嘘発見器が嘘をついていないことをチャイムで知らせるのをみて八郎は感心する。
「他に襲撃している所はあるのか?」
「け、決勝大会出場者はもれなく襲撃してます」
ピンポーン
「情報提供感謝する。死体は引き渡せないからこのまま速やかにシッポをまいて逃げてくれ。ミカヅキこいつら叩き出せ」
「あい」
ミカヅキはコクンと頷くと男達の首根っこを掴むとズルズルと引きずっていく。
「上の人。あのまま放り出してよいのでしょうか?」
「あいつらには送り狼をつけているから心配の必要はない。それよりミカヅキが戻ったら外に狩りにでる。エンゲツ。C型装備を用意しろ」
「攻撃用のC型装備か?解った」
エンゲツは目をキラキラさせながら尋ね返す。
「殺しても法的に問われない無法の徒が街を徘徊しているのだ。狩らないでどうする」
八郎の言葉を聞いたエンゲツは邪悪な微笑みを浮かべた。
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