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れでぃ その1

本編は完結していますが切りがいい所で分割していきます。

「勝者邪武」

いっちゃった声と同時に嬌声があがる。ここは福岡は天神の中心地だが、ここ数年は荒廃が激しい。もっともいま日本の国の大都市では、さして珍しい現象ではない。

汚職を払拭しないばかりか傲慢さに磨きをかける官僚と、建前論に終始し、保身と複数の舌を使い分けることしかしない政治家による国の運営は、この国の景気をよくしないばかりか、最悪といわれた時代のアメリカのハーレム街を日本のあちらこちらに忠実に再現していた。

「邪武にゃん愛してるよ~」

笑い声に送り出されるように、一人の少女が人の輪から抜け出してくる。頭の上には大きなネコミミ。小さいお尻には揺れる白いシッポ。素肌にオーバーオールというマニア受けしそうな姿をしている。ま、惜しむべくは遥かにお子様ボディのため色気というものがないということか。

「よう邪武。また堅実に稼いだな」

「武と違って一攫千金には興味がないにゃ」

「二、三日食っていけるだけの金さえ稼げりゃOKってか?もったいねぇよな」

格闘家とわかるがっちりとした肉体を黒の背広と同色のスラックスで包み込んだオールバックの武と呼ばれた男が、邪武にはなしかける。安っぽい黒縁のサングラスを掛けているため何枚目であるのかは判断できないが、左の眉毛から左頬に走る刀傷が無言の圧力を発散させている。

「それより邪武。例の件は、考えておいてくれたか」

「うにゅ?」

「お、お前な」

「あ、覚えている。覚えているにゃ」

武が握った右拳に向かって息を吐きかけると、邪武はシッポの毛を逆立てて弁明する。

「嘘つけ。さっきの顔は、完全に忘れていた顔だ」

「にゃはは」

邪武はしおらしく猫耳を伏せて笑う。

「う、らぶりぃニャンコ」

たまらず武はそのゴツイ胸板で邪武を強く抱きしめて頬ずりする。

「ぎゅ~」

すりすり。じたばた。

「むぎゃ~」

身長が百五十五センチ弱しかない邪武を二メートル近い武が抱きしめているから、どんなに邪武が手足をばたつかせてもビクともしない。

「あや!しまった」

武が気がついて開放したとき、邪武は顔をゆでたタコのように真っ赤にして目をグルグルと回していた。

「殺す気かにゃ」

「い~や。すまない。あまりにらぶりぃなんで。それで、さっきの話に戻るが、一ヶ月後に開催される武闘会『バトルファイターズ』のチームバトルのメンバーになってくれって話しただろ?」

「ええ?そんな話あったあったありました。だから殴らないで欲しいにゃ」

邪武はうずくまってプルプル震える。

「う~らぶりぃニャ、うげ」

「同じ手は何度も食わないにゃ」

もう一度抱きしめようとした武の顎先に邪武の膝がきれいにヒットする。

「なんでわたしに声をかけるにゃ?武ぐらいのA級ファイターならパートナーなんて引く手あまたのハズにゃ」

「たしかにお前は、ファイター最低クラスのE級だが」

「そうにゃ」

「そうにゃじゃない。いつまでたっても、お前が上のクラスのファイターと仕合をしないのが原因だろうが」

「にぎゃあ。痛い痛い痛いにゃ~」

武はげんこつで邪武のこめかみをグリグリする。

「なにするにゃ」

邪武は手首を掴むと、勢いをつけなることなく倒立する。そしてそのまま勢いをつけて膝を武の頭の上に落とす。

「痛ぅ。効いたぁ」

「ひどいことするにゃ」

「ひどい?まったく、油断していたとはいえ、この俺にあっさり一撃を食らわす人間の台詞じゃないぜ」

武は軽く頭を振って叩く。

「A級ファイターは『バトルファイターズ』への参加が義務なんだよ。助けるとおもって、な、力を貸してくれよ」

「うみゅ~正攻法にでられると弱いにゃ」

「それに」

「それに?」

「いや、なんでもない。それより、力を貸してくれるのか、見捨てるのかはっきりしてくれよ」

「わ、わかったにゃ。手を貸すにゃ」

邪武は、心底困り果てたような顔をして渋々承諾する。

「そうか。引き受けてくれるか」

武は再び邪武を力いっぱい抱きしめる。

「ぎゅう~」

「むぎゃ~」

またもや邪武は、ゆでた真っ赤なタコになるまで抱しめられた。

ありがとうございました

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